カール・ロジャーズ(Carl Rogers)といえばクライエント中心療法、パーソンセンタードアプローチ(PCA)を提唱した有名な方です。「傾聴」「共感」の元祖ともいえるのではないでしょうか。そんなロジャーズは中核三条件として「一致」「積極的関心」「共感的理解」を提唱しました。その中でも「一致」を一番イメージがしにくいのではないでしょうか。今回は村山 正治さんが監修された【ロジャーズの中核三条件 一致:カウンセリングの本質を考える 1】を紹介したいと思います。
作品情報
書名:ロジャーズの中核三条件 一致:カウンセリングの本質を考える 1
著者:本山 智敬 (著, 編集), 坂中 正義 (著, 編集), 三國 牧子 (著, 編集), 村山 正治 (監修)
出版:創元社出版(2015/8/20)
頁数:130ページ
私がこの本を読んだ理由
大学院の学内実習の時に「一致」について、悩み、SVの中心的な検討点になっていました。その時にスーパーバイザー(指導員)である先生からおすすめされた本です。当時は金欠で買うことができませんでしたが(代わりに大学図書室でフォーカシングの本を読みました)、働くようになったことでやっと買うことができました。
さらに、ロジャーズの中核三条件は、どのようなアプローチのカウンセリングであっても、カウンセラーとしての基本的な姿勢として有益だと考えています。そのため、これらの条件について学びたいと思い、この本を読むことにしました。
この本をおすすめの人
- ロジャーズの「一致」について勉強したい方
- 対人援助職(心理士、教師、ソーシャルワーカーなど)の方
本書は中核三条件の解説や入門書という役割だけではなく、新しい視点を得られるように構成されているため、ある程度ロジャーズの理論について勉強してる方でさらに深く理解したいという方にもおすすめです。
本の内容
ロジャーズの中核三条件である〈一致〉〈積極的関心〉〈共感的理解〉の内、〈一致〉を中心に取り上げています。本書の構成は基礎編、発展・実践編、特別編で構成されています。〈一致〉に関する様々なコラムもあります。
基礎編(一致とは何か?)
ロジャースの論文を中心に引用が多く用いられた文献に沿って理論的に一致について語られています。
①セラピストがクライエントとの関係で経験していることがら
②セラピスト自身が意識できていることがら
③セラピストの自己表明
が調和していることを〈一致〉している状態です。
また、「セラピストや治療者という仮面をつけていない状態」、「セラピストがクライエントとの関係の中で経験していることを嘘偽りなく、ありのままに気づいて意識していること」など様々な表現がされています。
ロジャーズの理論を学ぶ初学者が疑問である「セラピストは常に(セラピー以外の場)でも一致していなければならないのか」「セラピストが感じたことをすべてクライエントに伝えるべきなのか」そのような〈一致〉に関する疑問についての返答もこの章で書かれています。
〈一致〉って何?って聞かれた時にしっかり説明できるようになるくらいわかりやすく書かれていました。
[発展・実践編](臨床現場での一致とは)
基礎編で〈一致〉とは何かを学び、[発展・実践編]では〈一致〉の治療的効果や実際にどのように臨床現場で〈一致〉した態度をしているのかがか事例ともに述べられています。
〈一致〉の実践
〈一致〉を非行臨床やカウンセリング、エンカウンターグループなどの臨床現場でどのように表現されるか、どのような治療的効果があるか記されていました。
内的経験(自分が何を感じているか)を保持しながら相手を理解することに努めることで本当の意味で相手にとって適切な返答が可能になること「〈一致〉した治療者―クライエント」の関係を通して少しずつクライエントが変化していく、そのような事例から〈一致〉について考えることができます。
〈一致〉の発展
ジェンドリンが提唱した「フォーカシング」との関連も述べられています。また、〈一致〉についての本だからこその視点で「フェルトセンス」などジェンドリンの理論を絡ませて〈共感〉について述べられています。
ロジャーズの中核三条件を勉強したいのになんでジェンドリン?と思いましたが、二人はともに研究した仲であり、お互いの理論の影響を受けあっているため非常に勉強になります。
[特別篇](一致の多角的な見方)
【海外から見た寄稿】と【他学派からみた中核三条件】に分けられています。一致することと表現することの違いや精神分析とロジャーズの中核三条件との関連について述べられています。
海外からみた寄稿は
〈一致〉がなせ《中核》の三条件の1つであるかが述べられています。治療者が〈一致〉することでクライエントが〈一致〉するようになります。そうすることでクライエントは自分を十分に表現できるようになっていきます。そのためには、”一緒に”状況を眺めて、”一緒に”感じて、”一緒に”表現する必要があります。このようにセラピストがクライエントの自分自身を表現すること援助することが心理療法やカウンセリングの役割ではないかと述べられています。
この章を読むと心理的な治療の中に〈一致〉が必要な理由を考えることができると思います。
他学派からみた中核三条件
この章では精神科医が中核三条件を治療中に表現する難しさを述べています。
「私は本当に〈一致〉しているのか?」「〈共感〉できているのか?」「〈無条件の積極的関心〉をもてているのか?」と問いかける良いきっかけになりました。
終わりに
この本は、私自身の〈一致〉に対する理解度を深める上で非常に有益でした。私は「〈一致〉しなきゃ」「自分のままでいなければ」と自由でなくなってしまうことがあります。カウンセリング中に〈一致していない状態〉に気づくという視点が私にとって大きな学びでした。また、ロジャーズの理論を学ぶために読んだ本ですが、フォーカシングについての章は興味深く、ジェンドリンの理論を学びたいと感じました。
ただし、エンカウンターグループなど私にはなじみのないケースを扱った章は少し理解しづらかったです。それでも、この本は一貫した興味深さを持ちながら、新たな概念や技術への理解を促してくれる貴重な一冊であると思います。皆さんも是非お読みください。
自身の「セラピスト」、「治療者」としての役割にとらわれず、内的経験の揺れを感じつつ、「私」として〈一致〉した関わりを意識していきたいと思えました。
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