ADHD(Attention Deficit Hyperactivity Disorder、注意欠如・多動性障害)は、発達障害の一種であり、主に注意力の欠如や多動性、衝動性といった症状を特徴とします。少し前までは子どもに見られる特性として理解されていましがたが、現在は成人以降にも見られ、学校だけではなく、職場でも適切な理解と支援が求められています。今回は、ADHDの症状、原因、診断方法、治療法について詳しく解説していきたいと思います。
ADHDの症状
ADHDの症状は大きく分けて「不注意」「多動性」「衝動性」の3つがあります。今回のブログでは子どもにみられる症状以外にも大人(社会人)にもみられる症状を紹介していきます。
不注意
不注意の主な症状は以下の通りです。
注意散漫
仕事や学業において、集中力を持続することが難しいです。細部に注意を払えず、ケアレスミスを繰り返すことがあります。
- 子ども:計算間違いや書き間違いなど起こりやすいです。
- 大人:資料作成時の誤字脱字、PC作業でいつの間にかネットサーフィンをする、違う仕事をするなどが起こりやすいです。
指示や課題の遂行が困難
指示を聞き逃したり、宿題や仕事を途中で投げ出してしまうことが多いです。
- 子ども:学校の先生がHRで言っていたことを聞いていない、授業に集中できないなど学校生活で困りごとが起こります。
- 大人:上司の指示を聞き逃して仕事で失敗したり、資料作成を期日までに遂行することが難しかったりと仕事を放り投げてしまうことがあります。
物をなくしやすい
学校生活や職場で必要な物など日常生活で頻繁に使用する物をよく無くします。
- 子ども:学校の宿題、保護者に渡すプリント、文房具などをよく無くします。
- 大人:鍵や財布、スマートフォンなどよく無くします。
忘れっぽい
日常の活動や約束、提出しなければならない資料の提出などを忘れやすい傾向にあります。
- 子ども:宿題の期日、行事、学校に持っていく必要があるものなどを忘れることが多いです。
- 大人:ミーティングの予定、行政の手続き、友だちとの約束、美容院や病院など予約した外出予定を忘れることが多いです。
多動性
多動性の主な症状は以下の通りです。
過剰な動き
- 子ども:授業中に立ち歩いたり、教室から飛び出すなどの行動が目立ちますが、座っていても姿勢が保てないなども多動性の特徴です。
- 大人:ミーティング中に部屋からでたりします。成長の過程で多動性は落ち着いてくると言われますが、座っていても手足を動かしたり、物をいじったりするという行動が見られることもあります。
他の人比べて、長時間同じ姿勢でいることは難しいです。
おしゃべり
みんなで話し合う場所でも一人で話し続けてしまうこと傾向があります。また、自身の中で話したいことが浮かぶと相手が話しているのを遮って自分が好きなことを話すことがあります。話す内容がまとまらないという特徴も1つの要因になっています。
- 子ども:授業中に好きなように話す。友達との会話で一方的に話してしまったり、友だちや先生が話している時にも割り込んで自分の言いたいことを話すことが多いです。
- 大人:会議中に自分だけが長い時間話す、友達や職場の人と話す時に自分だけ話すと言った行動がみられます。
衝動性
衝動性の主な症状は以下の通りです。
順番を待つのが苦手
順番を待つのが難しく、イライラしたり、割り込んでしまうことがあります。
- 子ども:UNOやトランプなどのカードゲーム、滑り台など遊具の順番などを守れずに割り込んでしまうことがあります。
- 大人:飲食店などで案内されるまで待てない、テーマパークで並ぶのが苦手といった傾向があります。
衝動的な行動
- 子ども:危険な行動や思いつきの行動を取ってしまったり、感情のコントロールが難しい時があります。
- 大人: 思いついたことを即座に行動に移す。計画性がなく、突発的な行動が多かったり、怒りやイライラが急に高まってその場で感情を爆発させてしまうことがあります。
ADHDの原因
ADHDの原因は完全には明確にされていませんが、遺伝的要因や環境的要因、脳の機能的な異常などが複雑に絡み合っていると考えられています。
遺伝的要因
ADHDは遺伝的な要素が強く、家族歴がある場合に発症リスクが高まることが知られています。双子研究などから、遺伝的要因が発症に寄与していることが示唆されています。
環境的要因
出生前や幼少期の環境もADHDの発症に影響を与えると考えられています。例えば、母親の喫煙や飲酒、妊娠中のストレス、低出生体重などがリスク要因として挙げられます。ペアレント・トレーニングに有効性があることから本人の周辺環境がADHDの経過に影響があることが明らかとなっています。
脳の機能的異常
ADHDの患者は、脳の特定の領域において機能的な異常が見られることがあります。特に前頭前野の機能低下が関与しているとされており、これが注意力や衝動制御の問題を引き起こしていると考えられています。また、ドーパミンやノルアドレナリンといった神経伝達物質のバランスが崩れていることも示唆されています。
ADHDの診断方法
ADHDの診断は、専門の医師による評価が必要です。診断には、以下のような手順が含まれます。
面接と問診
発達障害は幼少期から特性が現れていなければADHDとは診断することは難しいとされています。不注意や多動、衝動性の背景にはストレスや不眠、精神疾患(うつ病)、家庭環境、職場環境などの影響がある場合もあります。
そのため、患者やその家族との面接を通じて、症状の詳細や生活の様子を確認します。幼少期から現在に至るまでの行動パターンや学業、仕事の状況などを詳しく聞き取ります。
ADHDに関連する心理検査
ADHDの診断には標準化された心理検査が用いられることがあります。例えば、Conners 3やADHD Rating Scale-IV(ADHD RS-Ⅳ)、Adult ADHD Self-Report Scales(ASRS)などがあり、これらを用いて症状の程度を評価します。
私たち心理士はこのような評価尺度を通してADHDの診断に携わる場合があります。
ADHDの治療法
ADHDは薬物療法と心理社会治療の2つがあります。これらを組み合わせることで、症状の管理と改善を図ります。
薬物療法
ADHDは他の発達障害と異なり、症状を改善する薬があります。ADHDの薬物療法には、主に中枢神経刺激薬と非刺激薬が用いられます。コンサータ、ストラテラ、インチュニブ、ビバンセなどがあります。
また、ADHD特性から現れる二次障害(抑うつ気分、不眠、不安)などに対処する薬が処方される場合もあります。
心理社会的療法
薬物療法に加えて、心理社会的治療も重要です。以下のようなアプローチがあります。
- ペアレント ・トレーニング:家族が患者の症状や治療について理解し、適切なサポートを提供できるようにする療法です。家族全体が治療に参加することで、患者の生活が安定します。お子様がADHDのご家族に行う介入方法ではありますが、大人のADHDでも家族の理解は非常に重要です。
- ソーシャル・スキル・トレーニング: 社会の中で生きていくために必要なスキルを獲得するためのトレーニングをする介入方法です。年齢に関係せずADHD特性を持つ方が生きやくすくなるために重要な支援方法となります。
- 認知行動療法(CBT): 患者が持つ否定的な考えや行動を修正し、前向きな思考や行動を促す療法です。特に大人のADHDに効果があるとされています
まとめ
このブログを読んで「私ってADHDかも」と思う人もいると思います。一方で、「忘れ物をする、集中できないなんて誰でもあるじゃん」と思う人もいるかもしれません。
しかし、これらの症状が社会で生きていく上での「障害」となっている人は非常に辛く、困り果てている状態です。
ADHDは、注意力の欠如や多動性、衝動性といった症状を特徴とする発達障害ですが、適切な治療と支援を受けることで患者は充実した生活を送ることが可能です。そのためには本人と周囲の人がADHDの特性を理解する必要もあります。私たち一人ひとりが正しい知識を持ち、偏見をなくす努力をすることが、ADHDを抱える人々の未来を明るくする第一歩になります。
主要参考文献
村山佳津美(2017)注意欠如・多動症 (ADHD) 特性の理解.心身医学57(1), pp27‐28.
American Psychiatric Association (原著), 日本精神神経学会 (監修, 著)(2023).「DSM-5-TR 精神疾患の分類と診断の手引].医学書院.
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