【audible】知念実希人『機械仕掛けの太陽』──コロナ禍の医療現場を知る、心揺さぶられる一冊【感想】

一般書

今回は、知念実希人さんの『機械仕掛けの太陽』を読みました。

正直、最初はあらすじも見ずに「知念実希人さんの作品だから」という理由で手に取り、「ミステリーかな?」なんて思いながら読み始めたんです。ですが、すぐにそれは勘違いだと気づきました。この本はコロナ禍の医療現場を真正面から描いた物語だったのです。

本の紹介

作品情報
書名:機械仕掛けの太陽
著者:知念実希人
出版:文藝春秋(2025/1/4)
頁数:528ページ

本書は、新型コロナウイルスのパンデミックを題材に描いた医療現場の物語です。2020年初頭から始まる物語は、大学病院の呼吸器内科医である椎名梓、同じく大学病院の救急看護師である硲瑠璃子、そして70代の開業医・長峰邦昭という3人の医療従事者を中心に展開されます。それぞれが異なる立場でコロナ禍に直面し、混乱や葛藤、希望を抱えながら最前線で奮闘する姿がリアルに描かれています。医療現場の過酷な現実と人間ドラマを通じて、読者に深い感動を味わえる一冊です。

著者の紹介

知念実希人さんは、1978年10月12日生まれ、沖縄県出身の小説家であり、現役の内科医でもあります。東京慈恵会医科大学を卒業後、2004年から医師として勤務を開始し、2011年に「レゾン・デートル」で第4回ばらのまち福山ミステリー文学新人賞を受賞。翌年、同作を改題した『誰がための刃』で作家デビューを果たしました。医療の知識を活かしたリアリティある描写と構成が特徴で、代表作には「天久鷹央の推理カルテ」シリーズや『仮面病棟』『崩れる脳を抱きしめて』などがあります。本屋大賞に5度ノミネートされるなど、多くの読者から支持を集めている作家です。

感想

※以下ネタバレを含みます。

コロナ禍を鮮明に思い出しました

私はコロナ禍のとき、大学生・大学院生でした。あの頃は、普段できるはずのことができなくなり、友達と遊ぶ機会もぐっと減って、本当に大変な時期でした。しかし、ニュースで「医療現場が切迫している」と知っていても、どこか他人事のようで、強い感情が揺さぶられることはあまりなかったのが正直なところです。

でも、この本を読んで、改めて思いました。医療現場で働く人たちは、私たちよりもはるかにプライベートを犠牲にして、心身ともに過酷な環境で働いていたのだと。結婚や子育て、キャリア…その一つ一つがコロナウィルスによって狂わされていっていたのだと…。

知念実希人さんは医師でもあり、医学的な知識や描写がリアルで、医療現場で働く登場人物たちの感情表現に心が動かされます。読んでいて何度か涙ぐみそうになりました。私は普段、公認心理心理師として心の病気に関わる仕事に携わることが多いのですが、コロナ禍の中で精神的に苦しんでいた人たちがたくさんいたのだと改めて気づかされました。その時、私は学生でしたし、接触ができないから心理士としてできることは少ないだろうという気持ちもありました。しかし、この作品でもzoom飲み会をしていたようにインターネットがありますし、「自分もそういう人たちを支えたい」という気持ちが読後に強く湧き上がってきました。

私が印象に残ったエピソード

特に心を打たれたのは、物語の中心にいる椎名梓の親友、茶山悠人のエピソードです。彼は結婚して、ようやく子どもが生まれるぞというときにコロナ禍が始まり、コロナ病棟で働くことになります。そこで自身が感染し、妻やお腹の子どもを危険にさらしてしまった…。その描写を読んで、本当に胸が締めつけられました。もし、自分が同じ立場だったら、と考えると夫としてすごく共感する部分がありました。

茶山は一度、育休によってコロナウィルスとの戦場を離脱しましたが、椎名がピンチの時に帰ってきたシーンは思わずにやけてしまいました。

最後に

今ではコロナもだいぶ落ち着きましたが、この本を読むことで、私たちが何と戦ってきたのか、そして最前線で戦ってくれた医療従事者や行政の方たちがどんな状況にあったのかを、改めて知ることができます。

ぜひ皆さんにも手に取って読んでみてほしい一冊です。

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