【おすすめの本】無条件の積極的関心について学べる『ロジャーズの中核三条件 受容:無条件の積極的関心 カウンセリングを考える2』

みなさんこんにちは!公認心理師のだびでです。いきなりですが、ロジャーズの中核三条件の1つである《無条件の積極的関心》をご存じでしょうか。カウンセリングや心理療法において《無条件の積極的関心》は非常に重要な概念です。多くのセラピストは《無条件の積極的関心》をある程度理解していると思います。しかし、みなさんは実際にカウンセリングや心理療法をしながら《無条件の積極的関心》を本当にできているか不安に感じたことはありませんか?また、誰かに「《無条件の積極的関心》って何?」と聞かれた時にあなたはどのように答えるでしょうか。

今回は飯島喜一郎監修『ロジャーズの中核三条件 受容:無条件の積極的関心カウンセリングを考える2』をご紹介します。この本を読むことで《無条件の積極的関心》が何を意味しているのか、カウンセリングや心理療法においてどのように重要かを具体的に理解することができます。それだけではなく、自身の態度を振り返り、《無条件の積極的関心》をどのように実践していたかを再評価する機会を得ることができるでしょう。

このブログを通じて、《無条件の積極的関心》の理解を深め、実践に役立てていただければ幸いです。

作品情報
書名:ロジャーズの中核三条件 受容:無条件の積極的関心
著者:飯長喜一郎(監)/坂中正義・三國牧子・本山(編)
出版:(2015/8/21)
頁数:152ページ

私がこの本を読んだ理由

大学院で臨床心理学を学び、カウンセリングの実習をしている段階から私は「ロジャーズの中核三条件がカウンセリングの基本的態度を学ぶ上で重要だ」と思っていました。そして、ロジャーズの中核三条件の《一致》について思い悩んでいる時に本書のシリーズ1作品目である『ロジャーズの中核三条件一致:カウンセリングの本質を考える1』を大学院の指導員に勧められました。そのシリーズとして本書も手に取ることとしました。

『ロジャーズの中核三条件一致:カウンセリングの本質を考える1』のブログも是非お読みください。

また、《無条件の積極的関心》について「クライエントのことをすべての側面を受容して、評価せずに関心をもって聴くことに努める。」という程度の理解で理論的に把握してているとは言えず、自分が本当にできているのか不安な時もありました。そのように考えていると「そもそもカウンセリングをする上でどのような意味と効果があるのか」をしっかり学びたいと思っていたので本書を読み始めることにしました。

この本をおすすめの人

  • 対人援助職の方
  • カウンセリングに興味を持っている方
  • ロジャーズの理論を学びたい方

ロジャーズの中核三条件である〈無条件の積極的関心》をより深く学びたい方には、ぜひ読んでいただきたい1冊です。

本の内容

本書はロジャーズを筆頭に著名人の論文や著書から多く引用されていることが特徴です。また、日本のロジャーズ理論に精通している方々が《無条件の積極的関心》について述べるだけでなく、神経科学や実際の臨床体験、海外からの寄稿、他理論の専門家からみた《無条件の積極的関心》の態度や効果について述べられています。

ロジャーズの中核三条件は切っても切り離せないものであるため、本書では《無条件の積極的関心》以外にも《一致》《共感的理解》についても触れていますが、今回はあえて《無条件の積極的関心》について述べている部分から

  • 《無条件の積極的関心》とは
  • 《無条件の積極的関心》の体験
  • 《無条件の積極的関心》の必要性

の3つに分けて紹介します。

無条件の積極的関心とは

まず、本書では無条件の積極的関心に関連する文献を紹介しつつ、《無条件の積極的関心》(Unconditional Positive Regards; UPR)を以下のようにまとめています。

クライエントの体験しているあらゆる面を、カウンセラーの枠組みから否定、肯定せずに、何の条件もなく、一貫してそのまま暖かく受けとめてゆく態度であり、クライエントをかけがえのない一人の個人としてありのままのその人を尊重し、心の底から大切にする態度であって、単なるスキルや技法ではない。ただし、完全なUPRは理論的にしか存在し得ないものであり、無条件性は程度の問題である

ロジャーズの中核三条件 受容:無条件の積極的関心カウンセリングを考える2.p7

《無条件の積極的関心》を支持や励ましのようなクライエントの役に立つと考えて行う非支持的な”技術”と混合してしまう人もいます。しかし、《無条件の積極的関心》は”技術”ではなくセラピストの肯定的側面も否定的側面も同じようにそのまま大切にする”態度”です。これらは区別して考える必要があります。

では、どのようにして《無条件の積極的関心》をクライエントに伝えることができるのでしょうか?本書では《無条件の積極的関心》は頷きや表情などの非言語コミュニケーションによって伝わることが多いと述べられています。また、共感的な応答によって伝わることもあれば、支持や励ましなどの”技術”も《無条件の共感的理解》という”態度”を伝える一つの手段(チャンネル)となります。

《無条件の積極的理解》を意識するとセラピストは「《無条件の積極的関心》をカウンセリングの中で体験しよう!体験しなければならない!」あるいは「どんなクライエントでも受容しなければならない!」と思うかもしれません。しかし、その必要はありません。クライエントによってはセラピストが無条件の積極的関心を十分に体験できないことがあります。それを誤魔化すことなく《一致》の姿勢を保ち、心の中で何ができているかを意識することが必要になります。セラピスト自身の体験に敏感になることではじめて二人の関係性について気づくこともあります。

つまり、《無条件の積極的関心》は絶対的なものでなく、二者の関係のあり方を記述する用語として捉えることがポイントとなります。《無条件の積極的関心》を学ぶと「《無条件の積極的関心》を完全に示すことや相手のすべてを受容するなんて自分には無理」と思うかもしれまんせん。しかし、その率直な感想は極めて正常であり、むしろ正しい視点です。本書は「《無条件の積極的関心》を多くできているのであれば、その分望ましい」と構える程度がちょうどいいということを教えてくれています。

無条件の積極的関心の体験

《無条件の積極的関心》を一言で表現すると「相手を認める関係」、「相手をいたわる関係」、「相手を大切にする関係」、「温かさが感じられる関係」などの表現をすることができます。微妙にニュアンスが異なり、セラピストとクライエントの体験にも違いがあります。このように《無条件の積極的関心》の体験にはかなり幅があります。

ジェンドリンはロジャーズの「中核三条件が知覚されなければならない」という記述について、クライエントが「他者が私に共感や無条件の積極的関心を向けている」と関係を知覚しないで「この人といるとなんとなく落ち着く」「この人は話がわかる人だ」と感じると述べています。

セラピストが関係のなかでクライエントの良い面、悪い面を認め、いたわりや暖かさを感じ、相手を大切にしようとしているように感じたとき、それは《無条件の積極的関心》と理論的に説明されるのである。

ロジャーズの中核三条件 受容:無条件の積極的関心カウンセリングを考える2.p40

と述べられているようにセラピストのクライエントに対する暖かさのような肯定的気持ちがなにかしらの形でクライエントに伝わっていればそれが《無条件の積極的関心》という態度を示していることになります。

しかし、本書では日本人の《無条件の積極的関心》に対する理解について「相手を思いやる」「温く受け入れる」という側面が強調され受け入れられており、「相手を一人の独立した人間として尊重する」という側面が逃されていないだろうかと問題提起をしています。このバランスが崩れており、Thが評価的であったり、解釈的だったりするとClの依存や甘えを満たして特性を発展させてしまう恐れももあります。《無条件の積極的関心》は一つの愛情ではありますが、クライエントの「依存欲求」や「一体化を求める願望」を満たすといった性質の愛情とは異なっていることを覚えておく必要があります。

無条件の積極的関心の必要性

最後になぜ対人援助《無条件の積極的関心》が必要なのかについてまとめます。

本書では《無条件の積極的関心》(Unconditional Positive Regards; UPR)の機能を以下のようにまとめています。

カウンセリングの中で自己と向き合うプロセスに伴う不安や脅威を緩和し、安全感を保証することでクライエントが自身を振り返ることを促すこと、クライエント自身がUPRを示すことができるようになること、それにより主体的になり、自分自身の感覚や体験を大切にするようになること、言えよう

ロジャーズの中核三条件 受容:無条件の積極的関心カウンセリングを考える2.p15

また、《無条件の積極的関心》はカウンセリングの初期に現れるカウンセリングに対する不安や戸惑いに対しても安全感を保証し、ラポールの発展や感情の自由な表現につなげてカウンセリングの導入や発展を手助けします。本書では神経科学的に見ても《無条件の積極的関心》は脳の初期成長やその後の発達における対人環境を具体化したものであり、認知行動療法といった他の心理療法のでも基盤であることが示唆されいます。

つまり、セラピストの《無条件の積極的関心》はクライエントの自己理解を促進させ、クライエントが自身に対して《無条件の積極的関心》を向けることによって自己受容ができるようにあり、《一致》することを促します。我々の日常は様々な「条件付き」の対人関係によって人格が狭めています。そのため、「無条件」であるThとの関係によって本人が認められない否認されている部分が人格に統合されていくと考えられます。

終わりに(感想)

今回は《無条件の積極的関心》とは何かということを中心に取り上げました。しかし、本書には他のロジャーズの中核三条件である《一致》《共感的理解》についてもたくさん触れられいます。また、エンカウンター・グループについても述べられているので関心がある方にもおすすめです。

本書を読むまで私は《無条件の積極的関心》の態度を取れているか心配な部分がありました。しかし、《無条件の積極的関心》はクライエントが「無条件」の関係性で縛られることなく自由な表現をするために必要であり、セラピストが《無条件の積極的関心》を行う意味を意識しながらカウンセリングに取り組めるようになった気がします。また、《無条件の積極的関心》を完全に示すことは不可能であることを知り、心が軽くなりました。《無条件の積極的関心》はクライエントとの関係性であり、100%セラピストの技量によって出来る/出来ないが決まるわけでもないことを学び、大切なのは二人の関係の中で何が起きているかに気づき、どうしていくべきかを考えることが重要であると知り、《無条件の積極的関心》に対する捉え方が変わりました。《無条件の積極的関心》を含むロジャーズの中核三条件の知識と体験をより深め、クライエントがより自由に表現できるカウンセリングを提供できるように努めていきたいと思います。

最後までお読みくださりありがとうございます。このブログを読んで本書を気になった方がいたらぜひお手に取って読んでみて下さい。私が感じたこと以外にもきっとあなたのためになることがたくさん書いてあると思います。それではさようなら~

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