仕事で「もう無理…」って思っても、なかなか「できません」って言えない。
家族や友だちに言いたいことがあっても、つい我慢してしまう。
「言わなきゃ」と思いながらも、「空気が悪くなったらどうしよう」「嫌われたくない」と頭をよぎって、結局何も言えないまま――。
反対に、部下や後輩のミスについ「なんでこんなこともできないの?」と強く言ってしまったり、家族に「だから言ったでしょ!」と語気が荒くなってしまったり。本当は怒りたいわけじゃないのに、言い終わったあとに「言いすぎたかな…」とモヤモヤが残る――。
どちらも、「ちゃんと伝えたいのに、うまくいかない」という同じ悩みの裏表です。
私たちは、毎日誰かと関わりながら生きています。だからこそ、人とのコミュニケーションがうまくいかないと、ストレスが溜まったり、自分を責めてしまったりしますよね。
今回は、そんな「人との関わり方」に悩んだときにヒントになる、アサーションという考え方をご紹介します。
アサーションとは?
アサーション(assertion)とは、自分の考えや気持ちを、相手を尊重しながら、率直に伝えるコミュニケーションの方法です。
言い換えると、「自分も大事」「相手も大事」というバランスの取れた伝え方。
- 相手を傷つけないように…
- 自分の本音を我慢して…
- でもモヤモヤが残る…
そんなときに役立つのが、アサーションです。
「ちゃんと伝える」ことは、わがままでも攻撃でもありません。
むしろ、健やかな人間関係を築くために欠かせないスキルなのです。
3つの伝え方のタイプ:あなたはどれに近い?
アサーションでは、人の伝え方を大きく3つのタイプに分けて考えます。
どれが「良い」「悪い」という話ではありません。誰でも、場面や相手によってどのタイプにもなり得るものです。「自分にはこういう傾向があるかも」と、ちょっと振り返るきっかけにしてみてください。
① つい強く言ってしまうタイプ(攻撃的)
「自分の気持ちを大事にしたいけど、相手の気持ちは後回しになりがち」というタイプです。
「ちゃんとしてほしい」「分かってほしい」という気持ちが強いあまり、つい言い方がきつくなってしまうことがあります。
たとえば、「なんでできないの?」「だから言ったでしょ!」といった言葉が出てしまう。本人は「伝えたい」だけなのに、結果的に相手を傷つけてしまい、あとから「言いすぎたかな…」と後悔することもあります。
このタイプは、裏を返すと「真剣に向き合いたい」という熱意の表れでもあります。そのエネルギーを、相手も大切にする形で伝えられたら、もっと良い関係が築けるかもしれません。
② つい我慢してしまうタイプ(非主張的)
「相手の気持ちを大事にしたいけど、自分の気持ちは後回しになりがち」というタイプです。
「嫌われたらどうしよう」「空気を壊したくない」という気持ちから、自分の意見や気持ちを飲み込んでしまうことがあります。
たとえば、本当は「それはちょっと困る」と思っていても、「まあ、いいよ…」と流してしまう。あとから「あのとき言えばよかった」とモヤモヤが残ることも。
このタイプは、裏を返すと「相手を大切にしたい」というやさしさの表れでもあります。そのやさしさを保ちながら、自分の気持ちも少しだけ伝えられるようになると、心がラクになるかもしれません。
③ 自分も相手も大切にするタイプ(アサーティブ)
「自分の気持ちも、相手の気持ちも、どちらも大切にする」
自分の考えや気持ちを率直に伝えながら、相手の考えや気持ちも同じように尊重する伝え方です。
たとえば、「私はこう感じています。あなたはどうですか?」というように、自分の気持ちを伝えたうえで、相手の話も聞く。意見が違ったときには、どちらかが一方的に折れるのではなく、お互いが納得できる落としどころを一緒に探すことを大切にします。
これがアサーションが目指す、「自分もOK、相手もOK」のコミュニケーションです。
最初から完璧にできる必要はありません。「ちょっと意識してみようかな」くらいの気持ちで、少しずつ練習していけば大丈夫です。
実践:DESC法で「伝え方」を組み立ててみよう
アサーションは生まれ持った才能ではありません。練習すれば誰でも身につけられるコミュニケーションの方法です。
とはいえ、「さっそくやってみよう」と思っても、実際に何をどう言えばいいのか迷ってしまいますよね。
そんなときに使えるのが、**DESC法(デスク法)**という方法です。4つのステップで、伝えたい内容を順序立てて整理できます。
D(Describe):事実を伝える
まず、自分の感情は入れずに、実際に起きたことをそのまま伝えます。
「昨日のミーティングで決まった内容について、確認したいことがあります」
E(Express):気持ちを伝える
次に、そのことについて自分がどう思ったか、どう感じたかを、「私は」を主語にして伝えます。
「私は、少し不安に感じています」
S(Suggest):お願いを伝える
相手にどうしてほしいのか、具体的にお願いします。
「次回は、事前に資料を共有してもらえたらうれしいです」
C(Consequence):良い結果を伝える
そのお願いを聞いてもらえたら、どんな良いことがあるかを伝えます。
「そうすれば、安心して会議に参加できます」
大切なのは、穏やかな口調で丁寧に伝えること。「あなたが悪い」という責め方ではなく、「私はこう感じています」「こうしてもらえると助かります」という言い方を心がけてみてください。
まずは頭の中で練習してみよう
いきなり本番で使うのは難しいので、まずは頭の中でシミュレーションしてみましょう。
- 自分が言いにくいと感じる場面を思い浮かべる(上司に断るとき、家族にお願いするとき、など)
- その場面で、DESCの4ステップに当てはめてみる
- 慣れてきたら、信頼できる人と実際に練習してみる
最初はぎこちなくても大丈夫。少しずつ「伝える練習」を重ねることで、だんだん自然にできるようになります。
実際にやってみると、「意外とちゃんと伝わった」「嫌われると思ったけど、そうでもなかった」という体験が生まれます。
そんな小さな成功体験が、次の一歩につながっていきます。
アサーションは心のケアにも役立ちます
アサーションは、心の専門家がカウンセリングでも使っている方法です。
たとえば、気持ちが落ち込んでいる人の中には、「嫌われたくない」「自分はダメだ」と思って、言いたいことを我慢してしまう人がたくさんいます。
でも、自分の気持ちを大切にして、「伝える練習」をしてみると、思っていたよりも相手が優しく受け止めてくれたり、話すことで気持ちが軽くなったりすることがよくあります。
つまり、アサーションは単なる話し方のコツではなく、心を元気にするための方法でもあるのです。
もっと学びたい方へ
アサーションについてもっと深く知りたい方に、おすすめの本をご紹介します。
平木典子(2012)『よくわかるアサーション 自分の気持ちの伝え方 』 主婦の友社
アサーションの第一人者による入門書。「自分も相手も大切にする伝え方」の基本が、やさしい言葉で丁寧に解説されています。
平木典子(2015)『マンガでやさしくわかるアサーション』日本能率協会マネジメントセンター
アサーションについて、漫画でわかりやすく解説しています。漫画が好きな方におすすめです。
まとめ
「伝えたいけど、うまく言えない」
「相手を傷つけたくないから、言わない」
「どうせ言ってもムダだから、我慢する」
そんなふうに、毎日少しずつ心にフタをしていませんか?
でも、本音を伝えることは悪いことではありません。
アサーションは、相手を思いやりながら、自分の気持ちを丁寧に伝える方法。
上手に使えるようになれば、心の負担も減り、人間関係がぐっとラクになります。
最初は小さな一歩からでOKです。
今日、誰かに「ありがとう」「ちょっとだけ手伝ってもらえますか」と声をかけてみる。
その一言が、あなたの心を少し軽くしてくれるかもしれません。
参考文献
- 平木典子 (2015).『マンガでやさしくわかるアサーション』日本能率協会マネジメントセンター
- 平木典子 (2012).『よくわかるアサーション 自分の気持ちの伝え方 』 主婦の友社.
- 平木 典子 (2021). 『三訂版 アサーション・トレーニング:さわやかな〈自己表現〉のために』 日本・精神技術研究所.
