【公認心理師が解説】強迫性障害(OCD)とは?原因・症状・治療

精神疾患

「鍵をきちんと閉めたかどうか不安になってしまい、何度も何度も自宅に戻って確認する行動を繰り返してしまう」

「特定の数字や言葉を心の中で決まった回数繰り返さないと、何か悪いことや不幸なことが起こってしまうような気がして仕方がない」

自分の意思に反して繰り返し繰り返し現れてくる強い不安や恐怖の思考、そしてその不安を打ち消そうとして行ってしまう儀式的な行動やルーティンに、日々疲弊し、心身ともに消耗していませんか?

もし、あなたが現在このようなつらさや苦しみを日常的に抱えているのであれば、それは強迫性障害(Obsessive-Compulsive Disorder: OCD)と呼ばれる心の不調である可能性があります。

強迫性障害は、適切な知識と専門的な支援によって十分に改善が見込める心の不調であることが、数多くの研究によって明らかになっています。この記事では、公認心理師である筆者が、最新の科学的エビデンスに基づいて、OCDの基本的な仕組みや発症のメカニズムから、国際的に推奨されている効果的な治療法をわかりやすく丁寧に解説していきます。この情報が、あなたの不安を少しでも和らげ、専門的な支援への第一歩を踏み出すための助けとなれば幸いです。

【⚠️ 倫理的な注記】

この記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、医師による診断や治療行為に代わるものではありません。症状が重く、日常生活に大きな支障が出ている場合や、自分自身や他者に危害が及ぶ可能性がある場合は、必ず専門の医療機関(精神科、心療内科など)にご相談ください。

強迫性障害(OCD)とは

強迫性障害は、**「強迫観念」と「強迫行為」**という2つの要素が組み合わさって起こる心の病気です。自分ではコントロールできない不安が繰り返し起こり、日常生活に支障が出てしまいます。

強迫観念(Obsession)とは

自分では止めたいのに、頭の中に何度も繰り返し浮かんでくる、不快で不安な考えやイメージのことです。

例えば、

「手にばい菌がついている」

「誰かを傷つけてしまうかもしれない」

「物がきちんと並んでいないと気が済まない」

などがあります。

強迫行為(Compulsion)とは

強迫観念から生まれた不安や嫌な気持ちを消そうとして、同じ行動を何度も繰り返したり、心の中で決まった儀式を行ったりすることです。

例えば、

「何度も手を洗う」

「鍵をかけたか何度も確認しに戻る」

「心の中で決まった回数だけ数を数える」

などがあります。

強迫観念と強迫行為の悪循環

強迫性障害のの特徴は、強迫観念と強迫行為が悪循環を生み出すことです。

例えば、

  1. 不安な考えが頭に浮かぶ(例:手が汚いかもしれない)
  2. 強い不安を感じる
  3. 不安を消すために行動する(例:何度も手を洗う)
  4. その瞬間は安心する
  5. 「行動しないと不安」という思い込みが強まる
  6. また同じ不安な考えが浮かぶ

という感じです。

この繰り返しを止めることが、OCD治療の中心となります。

強迫観念と強迫行為の主な類型

強迫性障害の症状は多岐にわたりますが、ここでは主な類型をご紹介します。

汚染・洗浄恐怖

  • 観念: 衣服や体、身の回りの物が汚染されている、病原菌がついているのではないか。
  • 行為: 異常なほど頻繁な手洗い、入浴、掃除、特定のものを避ける行動。

異常なほど頻繁な手洗い、入浴、掃除により、時間が大幅に奪われます。また、特定のものを避ける行動により、行動範囲が制限されます。

確認恐怖

  • 観念: 鍵を閉め忘れた、ガス栓を閉め忘れた、誰かを傷つけるような運転をしたかもしれない。
  • 行為: 異常な回数の戸締まり確認、運転経路のチェック、電気やガスの確認。

異常な回数の戸締まり確認、運転経路のチェック、電気やガスの確認により、外出や帰宅時に多大な時間を費やします。外出後も不安が続き、何度も自宅に戻る必要が生じます

加害恐怖

  • 観念: 突然、家族や他人に危害を加えてしまうのではないか、不適切な発言をしてしまうのではないか。
  • 行為: 刃物を隠す、特定の場所を避ける、頭の中で思考を打ち消すための儀式を行う。

刃物を隠す、特定の場所を避けるなどの行動制限が生じます。頭の中で思考を打ち消すための儀式を行うため、集中力が低下し、対人関係にも支障が出ます

対称性・完璧主義型

  • 観念: 物が完璧な位置にないと強い不快感が生じる、作業を完璧にこなさないと取り返しのつかないことになる。
  • 行為: 物を規則正しく並べ直す、文字を書き直す、何度もやり直しをする。

物を規則正しく並べ直す、文字を書き直す、何度もやり直しをするため、仕事や学業の効率が著しく低下します。完璧さを求めるあまり、タスク完了に膨大な時間がかかります

強迫性障害の主な原因:複合的な要因

強迫性障害は、一つの原因で発症するものではなく、複数の要因が複雑に絡み合って生じると考えられています。

生物学的要因

神経伝達物質の関与: 脳の中で情報を伝える物質(特にセロトニン)のバランスが崩れていることが原因の一つと考えられています。セロトニンは気分や衝動のコントロールに関わっているため、このバランスの乱れが強迫性障害の症状につながると言われています。

また、考えや行動の切り替えを担当する脳の部分(大脳基底核や前頭葉)の働き方に強迫性障害の患者さん特有の特徴があることが、最新の脳科学研究でわかってきています。

心理学的・環境的要因

不安を感じやすい性格、「自分がきちんとしなければ」という強い責任感、「完璧にやらなければ」という考え方が、強迫観念を受け入れやすくしてしまうことがあります。

また、「進学」、「就職」、「出産」、「大切な人との別れ」など人生の大きな出来事や環境の変化が強迫性障害の症状が現れたり悪化したりするきっかけになることがあります。

治療法:国際的に推奨される専門的アプローチ

強迫性障害は、適切な専門的治療によって十分に改善が見込める疾患です。

心理療法(曝露反応妨害法:ERP)

現在、強迫性障害に最も効果的とされている心理療法が強迫行為に少しずつ向き合う曝露反応妨害法(ERP)です。

これは認知行動療法の一種で世界中の専門家から推奨されています。

暴露反応妨害法では、不安になる状況にあえて向き合い(曝露)、向き合うそのときに普段やってしまう強迫行為を我慢します(反応妨害)。

これを繰り返すことで

  • 「強迫行為をしなくても、実際には悪いことは起こらない」
  • 「不安な気持ちは、時間が経てば自然と落ち着いていく」

ということを学んでいきます。

⚠️ 必ず専門家と一緒に行いましょう

ERPは効果的な方法ですが、必ず医師や公認心理師などの専門家の指導のもとで、段階的に進めることが大切です。自己判断で無理に実践すると、かえって症状が悪化したり、心に傷を負ったりする危険性があります。

※今後、ERPについて詳しく解説したブログを投稿予定です。

薬物療法(SSRIなど)

薬物療法では、主にSSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)という種類のお薬が使われます。このお薬は、脳内のセロトニンという物質のはたらきを整えることで、不安な気持ちや衝動的な行動を和らげる効果があります。

特に、強い不安やうつ症状がある場合に効果的で、心理療法と組み合わせることで、より高い改善効果が期待できます。

お薬の種類や飲み方については、必ず医師に相談し、指示に従ってください。

まとめ

強迫性障害(OCD)は、本人の意思に反して繰り返し現れる不安や恐怖の思考(強迫観念)と、その不安を打ち消すために行ってしまう儀式的な行動(強迫行為)によって特徴づけられる心の不調です。しかし、適切な知識と専門的な支援があれば、十分に改善が見込める疾患であることが科学的に証明されています。

強迫性障害の克服への道のりは決して平坦ではありませんが、日々の自分の状態を正確に把握し、小さな成功体験を積み重ねることで、確実に前進することができます。

一人で抱え込まず、専門家の力を借りながら、あなた自身のペースで回復への一歩を踏み出していただければと思います。

参考文献・資料

  1. American Psychiatric Association. (2023). DSM-5-TR 精神疾患の分類と診断の手引 (日本精神神経学会 監修; 高橋三郎 ほか 監訳). 医学書院. (原著出版年: 2022)
  2. National Institute for Health and Care Excellence (NICE). (2005). Obsessive-compulsive disorder and body dysmorphic disorder: treatment. [CG31]
  3. 日本不安症学会・日本神経精神薬理学会 (監修). (2025). 強迫症の診療ガイドライン (第1版).
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