【公認心理師が解説】大人の発達障害(ASD)とは?人生を再構築する「自分取扱説明書」

発達障害

「みんなと同じように頑張っているのに、なぜか自分だけ怒られる」

「職場で浮いている気がするが、何が悪いのか分からない」

「一つのことに集中しすぎると、周りが見えなくなってしまう」

もしあなたが今、このような終わりのない「生きづらさ」を抱えているなら、それはあなたの努力不足でも、性格の歪みでもないかもしれません 。近年、大人になって初めて*自閉スペクトラム症(ASD)**の診断を受ける人が急増しています 。

かつて発達障害は子ども特有のものと考えられていましたが、現在は生涯にわたる「脳の特性」として再定義されています 。

今回は、大人の発達障害の一つであるASD(自閉スペクトラム症)の特性と、診断が人生をどう変えるかについて、最新の医学的知見に基づき解説します。

 大人の発達障害(ASD)とは何か

まず最初に、医学的には「大人の発達障害」という独立した診断名は存在しません。これは「幼少期からあった発達の特性が、大人になってからの社会生活(仕事や人間関係)において、著しい不適応を引き起こしている状態」を指す通称です。

「個性」が「障害」に変わる瞬間

発達障害は、生まれつきの脳の働き方の違いであり、親のしつけや本人の性格に起因するものではありません 。学校という「構造化」された環境では目立たなかった発達の特性も社会に出て「臨機応変な判断」や「暗黙の了解」を求められた途端、耐えがたい「障害」として現れます。

子どもの頃は何も問題なく過ごせていたのに大学生、社会人になってからASD特性の生きづらさを感じる時に「大人の発達障害」の可能性があります。

なぜ「大人」になってから分かるのか?

これは「過剰適応(無理な努力)」の結果であることが多いです。 学生時代は「真面目な子」「少し変わった子」で済んでいた発達特性が、社会人になり「暗黙の了解」や「マルチタスク」を求められた途端、脳の処理能力が追いつかなくなります。

このギャップに苦しみ、生きづらださを感じている場合に、背景にはASDが見つかるケースが増えています。

医学的診断の核心:ASDの中核症状

DSM-5(精神疾患の診断・統計マニュアル)において、ASDは主に以下の2つの領域で判断されます 。

社会的コミュニケーションおよび対人相互反応の障害

社会的・情緒的相互関係の欠陥

会話が「キャッチボール」のようにならず、相手の反応に気づかないまま、自分の興味のある話を一方的に話し続けてしまう傾向があります。相手が「つまらなそう」「話を変えたい」というサイン(目を逸らす、返事が短くなるなど)に気づきにくいため、相手が疲れていても気づかずに話し続けてしまうのです。

言葉以外の情報を読み取ることの困難

相手の表情、目の動き、身振り、声の調子といった「言葉以外の情報」を読み取ることが苦手です。例えば、相手が怒っているのに気づかなかったり、冗談だと気づかずに真に受けたりします。また、自分自身も表情が硬かったり、相手の目を見ることが苦痛に感じたりすることがあります。

人間関係を築き、維持することの困難

「場の空気を読む」という、誰も明確には教えてくれない社会的ルールを理解するのが困難です。例えば、葬儀の場で冗談を言ってしまったり、悲しい話題で笑ってしまったりするのは、悪気があるのではなく、その場面に合った行動が何かを理解できていないからです。

限定された反復的な行動、興味、または活動の様式

こだわりが強く、ルーティンを守りたい

毎日の道順、やり方、物の配置、スケジュールが決まっていないと落ち着きません。急な予定変更が起きると、強い不安やパニックを感じることがあります。

特定の分野に異常なほど詳しい

特定の分野(数字、鉄道、機械の仕組みなど)に対して、並外れた知識や関心を持ちます。この集中力は仕事では大きな強みになりますが、興味のない分野には全く関心が向かないため、幅広い業務をこなすのが難しくなることもあります。

音や光などの刺激に敏感に反応する

五感の感じ方が極端です。多くの人は気にならない空調の音やキーボードの音が、耐えられないほどの大きな音に聞こえる「聴覚過敏」などが代表的です。

「似ているけれど違う」を見極める

「自分は発達障害かもしれない」と感じる人は多いかもしれません。しかし、実際に医師の診察を受けると、発達障害ではなく、別の原因が生きづらさの理由だったということも珍しくありません。発達障害と似た症状を示す病気は多くあるため、医師による慎重な見極めが必要です。

強迫性障害

手洗いや確認行為などの「繰り返し」は両者に共通しますが、その動機が決定的に異なります。ASDのこだわりは「自分の楽しみ」や「安心」のために行うもので、本人はその行為になじんでいます(自我親和的)。

一方、強迫性障害は「不安や恐怖を打ち消すため」に「やらざるを得ない」もので、本人は「馬鹿げている、やめたい」と苦痛を感じています(自我異和的)。診断では、その行動が好きでやっているか、やめたいのにやめられないかという「本人の感情」が重要な判断材料となります。

統合失調症

孤立や独自の思考が共通しますが、発症時期と症状の質が異なります。ASDは幼少期からの特性ですが、統合失調症は思春期以降に発症し、意欲減退により交流エネルギー自体が枯渇します。

また、ASDの信念が事実やデータの独自解釈に基づくのに対し、統合失調症の妄想は「操られている」など現実離れした内容が特徴です。ただし、ASDの方が過度なストレス下で一時的に似た状態(幻聴など)になることもあり、専門家による慎重な成育歴の確認が不可欠です。

パーソナリティ障害

対人トラブルが続く点は似ていますが、原因が「認知(捉え方)」か「情緒(感情)」かで区別されます。ASDは相手の表情や意図を読み取れない「認知的なすれ違い」が原因です。

一方、境界性パーソナリティ障害などは「見捨てられ不安」を背景に、相手への評価が理想化とこき下ろしで激しく揺れ動く「感情の不安定さ」が特徴です。

「相手の気持ちがわからない」のか、「相手の反応に過敏すぎて振り回される」のかという視点で鑑別します。

診断と検査のプロセス:専門家の役割

自分がASDかもしれないと思ったとき、医療機関では診断をする必要があります。

医師による総合診断

精神科医は、最終的な「診断」を下す唯一の責任者です 。医師は診察を通じて、以下の要素を総合的に判断します。

  • 成育歴の精査: 症状が発達早期から存在していたかを確認します 。
  • 経過の確認: 現在の困り事が、人生のどの段階からどのように現れたかを聴取します 。
  • 医学的判断: 他の精神疾患との鑑別を行い、DSM-5などの国際基準に基づいて診断を確定させます。

公認心理師による心理検査

私たち公認心理師は、患者に心理検査を実施することで発達障害の診断に必要な「客観的情報の収集と分析」を行うことがあります。

  • 知能検査(WAIS-IV): 知能指数(IQ)だけでなく知的能力の凸凹を分析することで医師の診察の資料とします。
  • PARS-TR:親など幼少期の様子を知っている方に質問をして、発達障害の特性があるかを検査します。
  • AQ-J:本人にアンケートを回答をお願いして発達障害の特性があるかを分析します。

まとめ:診断は「攻略本」を手に入れること

大人のASDは、決して「甘え」ではありません。 診断や検査を通じて自分の特性(凸凹)を知ることは、「自分という人間をどう扱えばパフォーマンスを発揮できるか」 を知ることと同義です。

もし「生きづらさ」を感じているなら、専門機関への相談を検討してください。あなたのその「こだわり」や「集中力」が、適切な環境下で才能として花開くための第一歩となるはずです。

参考文献

American Psychiatric Association. (2023). DSM-5-TR 精神疾患の分類と診断の手引 (日本精神神経学会 監修; 高橋三郎 ほか 監訳). 医学書院. (原著出版年: 2022)

岡田 俊. (2017). 自閉スペクトラム症 (ASD) の特性理解. 心身医学57(1), 19–26.

加藤進昌. (2023). 『ここは、日本でいちばん患者が訪れる 大人の発達障害診療科』 プレジデント社.

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