皆さん、こんにちは。公認心理師のだびでです。
働く世代の皆さんに向けて、「うつ病」について専門的な内容を、できるだけ分かりやすくお伝えします。うつ病は「怠け」ではなく、脳のはたらきの不調により、本人の意思だけでは改善が難しくなる病気です。早めに気づき、適切な支援につながることが何より大切です。
うつ病の原因
うつ病は、脳内の神経伝達物質(セロトニン、ノルアドレナリン、ドパミンなど)のバランスの乱れと、ストレスや環境変化などの要因が重なって起こると考えられています。ポイントは「一つの原因で決まるわけではない」ということです。

生物学的要因:遺伝的素因、神経伝達物質の不均衡、ホルモン変化 など
心理社会的要因:強いストレス、対人関係の悩み、喪失体験、トラウマ など
性格傾向:完璧主義、自己批判が強い、否定的な考えにとらわれやすい など
環境要因:過重労働、役割変化(昇進・異動・育児・介護)、生活リズムの乱れ など
これらが組み合わさることで、脳の機能に変化が生じ、うつ病の症状が現れます。なお、脳の組織そのものが壊れる病気ではなく、機能の不調が中心です。
うつ病の主な症状
うつ病の症状は人によって異なりますが、次のような特徴が続くのが一般的です。
1. 心理的症状

抑うつ気分:悲しさや空虚感が続き、楽しめない
興味・喜びの低下:以前は楽しかったことに心が動かない
思考・集中の低下:考えがまとまらない、決められない
自己評価の低下:自分に価値がないと感じる
過度の罪悪感:根拠のない自責の念
希死念慮:死や自殺について考える
2. 身体的症状

睡眠の問題:不眠または過眠
食欲の変化:食欲不振または過食
だるさ・気力低下:常に疲れており動きづらい
精神運動の変化:動作が遅くなる、または焦燥感が強い
身体の不調:頭痛、腹痛、めまい など
診断の目安として、これらの症状がほぼ毎日、2週間以上続き、仕事や家庭生活に支障が出ていることがあげられます。
また、身体症状が辛くて内科を受診したことがきっかけでうつ病が見つかることもあります。
うつ病の治療

症状の重さや状況に応じて、複数の方法を組み合わせます。
薬物療法
脳内の神経伝達物質のバランスを整える抗うつ薬を用います。以前は副作用などの影響が強かったですが、現代は科学が発展して副作用が少ない薬も増えて種類も豊富なため、安心して使用することができます。
SSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬):第一選択として広く用いられています。
SNRI(セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬):セロトニンとノルアドレナリン両方に作用し、一部の症状に効果的と言われています。
三環系抗うつ薬:昔から使われており、効果は高いですが、副作用が現れやすいです。
その他の抗うつ薬:ミルタザピン、ミルナシプラン など
効果が現れるまで2〜4週間ほどかかることが多く、医師の指示に従って継続することが重要です。自己判断で中断すると再発リスクが上がります。
精神療法・カウンセリング
薬物療法と並行して、考え方や行動のパターンに働きかけます。
認知行動療法(CBT):偏りに気づき、現実的で柔軟な考えに調整する
対人関係療法(IPT):対人関係の課題に焦点を当てて改善を図る
マインドフルネス認知療法:今この瞬間に注意を向ける練習で再発予防を図る
行動活性化:達成感や喜びを得られる活動を少しずつ増やす
環境調整
回復を支える土台づくりです。
生活リズム:起床・就寝・食事の時間を整えることが大切です。
適度な運動:運動はうつ病の治療に効果があると言われています。ウォーキングなど無理なく続けられるものから始めることが多いです。
社会的サポート:家族や同僚、友人とつながりが治療の一環となります。
職場調整:休職、業務量や働き方の一時的な見直しなど
環境調整では、「少しずつ増やす」「無理をしない」環境を整えていきます。
公認心理師の役割
私たち公認心理師は、職場や医療の領域で多職種(医師、看護師、上司、人事など)と連携しながら、うつ病患者の評価と支援を行います。
心理アセスメント
PHQ-9:日常診療で用いられる自己記入式の抑うつスクリーニング
BDI-II:抑うつ症状の重症度を測定
ロールシャッハ・テスト:パーソナリティを測定すると心のエネルギー量について測定することができます。
WAIS-Ⅳ:IQを測定することでうつ病が情報を処理する能力に影響を及ぼしている可能性や今後の生活を支援する方法を検討するために実施することがあります。
心理検査の結果を踏まえて、個別の支援計画を立てます。
本人・家族への支援
公認心理師はうつ病の患者にさまざまな方法で支援を行っています。
心理教育:うつ病の仕組みや回復の道筋を丁寧に説明します。うつ病を理解することで患者さん自身が治療に携わることができます。
心理療法:認知行動療法などでうつ病の治療と再発予防を行います。
家族支援:家族は「どう接すればいいか」迷いがちです。関わり方のアドバイスや負担軽減の支援
リワーク:復職準備や段階的な職場復帰のサポートをします。多職種で協力して支援を行います。
まとめ
うつ病は、意志の弱さではなく脳の機能の不調によって生じる病気です。日常的な「気分が落ち込む」とは質が異なり、適切な治療と支援が必要です。薬物療法と心理療法、そして環境調整を組み合わせることで、多くの方が回復を実感しています。
焦らず、ゆっくりと回復の道を歩んでいきましょう。必要なときは、医療機関や相談機関に相談してください。
参考文献
日本うつ病学会(2016)「日本うつ病学会治療ガイドライン Ⅱ. うつ病(DSM-5)/ 大うつ病性障害」https://www.secretariat.ne.jp/jsmd/iinkai/katsudou/data/20190724.pdf
日本精神神経学会, 髙橋三郎, 大野裕(監訳), 染矢俊幸, 神庭重信, 尾崎紀夫, 三村將, 村井俊哉, 中尾智博(訳). (2023). DSM-5-TR 精神疾患の分類と診断の手引.
大野 裕 (2003). こころが晴れるノート:うつと不安の認知療法自習帳. 創元社