【公認心理師が解説】前頭側頭型認知症とは?”性格が変わった”の背景と進行とつきあう攻略ルート

行動・性格・ことば・家族支援を表す光のオーブを、女性の冒険者と黒柴のだびでが見つめるピクセルアート 精神疾患・発達障害

皆さん、こんにちは。公認心理師のだびでです。

「穏やかだった夫が、最近、ささいなことで怒鳴るようになった」

「お店の商品を、お金を払わずに持って帰ってきてしまった」

「毎日同じ時間に同じ道を歩き、同じものばかり食べるようになった」

家族のこんな変化に、「性格が変わってしまった」「どうしてこんなことをするのか」と悩んでいる方もいるかもしれません。こうした変化の背景にあることがある病気のひとつが、前頭側頭型認知症です。

ゲームでたとえるなら、前頭側頭型認知症は、キャラクターの行動を管理する「司令塔」や、言葉の意味を引く「辞書」のはたらきが弱まり、本人の意思とは関係なく、いつもと違う行動や言葉が出てしまう状態です。わざと困らせようとしているわけではなく、脳の病気によって、ブレーキや判断のはたらきがうまく使えなくなっているのです。

この記事では、公認心理師の立場から、前頭側頭型認知症の特徴やタイプ、似た病気との違い、そして進行とつきあっていくための攻略ルートを整理します。

この記事でわかること

  • 前頭側頭型認知症と、ほかのタイプの認知症との違い
  • 3つのタイプ(行動障害型・意味性認知症・進行性非流暢性失語)の特徴
  • 社会的に問題になる行動と、その背景
  • 間違えやすい病気(うつ病・双極症・統合失調症など)
  • 治療・接し方・若年性認知症の支援制度

注意:この記事は公認心理師の立場から情報提供を目的として書いています。認知症かどうか、どのタイプかの診断は医師が行うもので、この記事で診断することはできません。気になる症状がある場合は、もの忘れ外来や認知症疾患医療センター、地域包括支援センターなどにご相談ください。

前頭側頭型認知症とは?【定義と位置づけ】

前頭側頭型認知症(FTD)は、脳の前頭葉と側頭葉が少しずつ縮んでいくことで、行動や性格、言葉の変化が起こる病気です。初期には物忘れが目立たず、「性格が変わった」「わがままになった」と受け取られやすいのが特徴です。

ほかのタイプの認知症との違い

これまでの記事で紹介した、アルツハイマー型認知症、レビー小体型認知症と比べてみましょう。

比べるポイントアルツハイマー型レビー小体型前頭側頭型
最初に目立ちやすい症状物忘れ幻視、調子の波、動きにくさ行動や性格の変化、言葉の障害
発症しやすい年代65歳以上が多い65歳以上が多い50〜60代など、比較的若い年代にも多い
記憶初期から低下が目立つ初期は比較的保たれる初期は比較的保たれる
病気への気づき物忘れに気づきにくい調子によって異なる自分の変化に気づきにくい

それぞれについては、アルツハイマー型認知症とレビー小体型認知症の記事で解説しています。

前頭側頭葉変性症と3つのタイプ

前頭葉と側頭葉が縮んでいく病気をまとめて、前頭側頭葉変性症(FTLD)と呼びます。その中には、症状の現れ方によって、主に次の3つのタイプがあります。

  • 行動障害型前頭側頭型認知症:行動や性格の変化が中心
  • 意味性認知症:言葉の意味がわからなくなることが中心
  • 進行性非流暢性失語:言葉がなめらかに話せなくなることが中心

一般に「前頭側頭型認知症」というと、行動障害型を指すことが多いですが、この記事では3つのタイプをまとめて紹介します。

若年性認知症の原因のひとつ

前頭側頭型認知症は、認知症全体の中で占める割合は高くありませんが、比較的若い年齢で発症することが多く、65歳未満で発症する若年性認知症の原因のひとつとしても知られています。働き盛りの世代で発症するため、仕事や家計、子育てへの影響が大きくなりやすい病気です。

また、行動障害型前頭側頭型認知症と意味性認知症は、国の指定難病「前頭側頭葉変性症」に含まれています。診断基準や重症度の条件を満たすと、医療費の助成を受けられる場合があります。

原因・背景

前頭葉と側頭葉のはたらき

前頭葉と側頭葉は、私たちが社会の中で生活していくうえで、とても大切なはたらきを担っています。

脳の部位主なはたらき弱まると起こりやすいこと
前頭葉行動のブレーキ、計画を立てる、判断する、人の気持ちを考える、意欲をわかせるがまんができない、同じ行動をくり返す、人の気持ちに配慮できない、やる気がなくなる
側頭葉言葉の意味を理解する、物や人の顔を認識する、感情を処理する言葉の意味がわからない、物の名前が出てこない、知っている人の顔がわからない

ゲームでいえば、前頭葉は「司令塔」、側頭葉は「辞書」の役割です。司令塔が弱まると、行動にブレーキがかからなくなり、辞書が弱まると、言葉の意味が引けなくなってしまいます。

異常なたんぱく質と遺伝

前頭側頭型認知症の原因はまだ完全にはわかっていませんが、タウやTDP-43といった異常なたんぱく質が、脳にたまることが関係していると考えられています。

また、欧米では、家族に同じ病気の人がいる例が少なくないと報告されていますが、日本では家族性の例は少ないとされています。

症状・特徴で整理する

3つのタイプの比較

タイプ主に縮む部位中心となる症状
行動障害型前頭葉(と側頭葉の前の部分)行動や性格の変化、社会的な行動の乱れ
意味性認知症側頭葉の前の部分言葉や物の意味がわからなくなる
進行性非流暢性失語左の前頭葉などの言葉に関わる部分言葉がなめらかに出てこない、発音しにくい

1. 行動障害型

行動障害型は、前頭側頭型認知症の中で最も多いタイプです。人との関わり方や社会的な行動が大きく変化し、次のような特徴が見られます。

  • 抑制が効かなくなる:周りを気にせず、場にそぐわない行動や発言をする
  • 意欲がなくなる:周りのことに興味を示さず、家事や仕事への意欲がなくなる
  • 思いやりが薄れる:人の気持ちを想像しにくくなり、冷たく見える態度をとる
  • 同じ行動をくり返す:毎日同じ時間に同じ道を歩く、同じ動作をくり返すなど、決まった行動にこだわる
  • 食べ方が変わる:甘いものばかり食べる、同じものを食べ続ける、食べ過ぎるなど

初期には「性格が変わった」と思われることが多く、家族でさえ認知症だと気づかないことがあります。周りの人が「最近おかしい」「前はこんな人じゃなかった」と感じることは、診断の大切な手がかりになります。

2. 意味性認知症

意味性認知症は、物の名前や言葉の意味がわからなくなっていくタイプです。

  • 言葉の意味がわからなくなる:「りんご」と言われても、それが何を指すのかわからなくなる
  • 物の名前が出てこない:りんごを見ても、「りんご」という言葉が出てこなくなる
  • 中身の乏しい会話になる:一見なめらかに話せているように見えても、具体的な内容が乏しくなる
  • 知っている人の顔がわからなくなる:親しい人の顔でも、誰なのかわからなくなることがある

日常会話はスムーズにできることも多いため、周りの人は「ただの物忘れ」と思いがちです。しかし実際には、基本的な言葉の意味さえわからなくなっていることがあります。

3. 進行性非流暢性失語

進行性非流暢性失語は、主に「話す」力に影響が出るタイプです。

  • 言葉がなめらかに出ない:話し方がたどたどしくなり、言葉が出てくるまで時間がかかる
  • 文法が崩れる:助詞が抜けるなど、正しい文を組み立てにくくなる
  • 発音しにくくなる:言葉を正しく発音することが難しくなる
  • 人の話は理解できる:初期には、人の言葉を理解する力は比較的保たれている

頭の中で考えていることをうまく言葉にできないため、本人は強いもどかしさや孤独、不安を感じやすくなります。

社会的に問題になる行動

行動障害型では、抑制が効かなくなることで、次のような行動が見られることがあります。

  • お店の商品を、お金を払わずに持ち帰ってしまう
  • 信号無視など、交通ルールを守れなくなる
  • 人前で場にそぐわない発言や行動をする

こうした行動は、本人が悪いことをしようとしているのではなく、脳の病気によって行動のブレーキが効かなくなっている症状です。ただし、周りとのトラブルや、法的な問題につながることもあるため、こうした行動が見られたら、早めに医療機関や地域包括支援センターに相談することが大切です。診断を受けていることで、周りの理解や対応が得られやすくなる場合もあります。

本人が病気に気づきにくい

前頭側頭型認知症では、本人が自分の変化に気づきにくいことが多いのも特徴です。そのため、本人が受診を嫌がることも少なくありません。家族が先に、医療機関や相談窓口に相談しておくとよいでしょう。

間違えやすい・併発しやすいもの(鑑別)

前頭側頭型認知症は、初期には物忘れが目立たないため、精神疾患などと間違えられることがあります。

病気・状態前頭側頭型認知症との主な違い
アルツハイマー型認知症物忘れから始まることが多い。前頭側頭型では、初期の記憶は比較的保たれる
うつ病意欲の低下は似ているが、うつ病では気分の落ち込みや自分を責める気持ちが中心にある
双極症気分の波がエピソードとして現れる。前頭側頭型の行動の変化は、波ではなく、少しずつ進んでいく
統合失調症若い時期に発症することが多く、幻覚や妄想が中心
発達障害・パーソナリティ障害子どもの頃や若い頃から特性が続いている。前頭側頭型では、ある時期から「別人のように」変化する

特に、中年期以降に初めて、人柄が大きく変わる、社会的なルールを守れなくなるといった変化が現れた場合は、前頭側頭型認知症の可能性も考える必要があります。それぞれの病気については、うつ病、双極症、統合失調症、パーソナリティ障害の記事で解説しています。

運動の症状を伴うことがある

前頭側頭型認知症の一部には、筋肉が少しずつやせていく筋萎縮性側索硬化症(ALS)や、パーキンソン症状などの運動の症状を伴うことがあります。飲み込みにくさや、手足の力が入りにくいなどの変化が見られたら、主治医に伝えてください。

進行とつきあう攻略ルート

治療のゴール

現在のところ、前頭側頭型認知症を完全に治す方法はありません。治療の目標は、症状を和らげ、周りとのトラブルや危険を減らしながら、本人がその人らしく、穏やかに過ごせる時間を長くすることです。

薬物療法

前頭側頭型認知症に対して、病気の進行そのものを抑える薬は、現在のところ確立されていません。また、アルツハイマー型認知症に使われる薬は、前頭側頭型認知症では効果が期待しにくいとされています。

一方で、こだわりの強い行動や、イライラ、過食などの症状を和らげる目的で、SSRIなどの抗うつ薬などが使われることがあります。どの薬も副作用が現れる可能性があるため、医師と相談しながら調整していきます。

環境調整と接し方

前頭側頭型認知症では、薬よりも、環境の調整や接し方の工夫が大きな役割を果たします。

  • ルーティンを活かす:同じ行動をくり返す特徴を逆に活かし、散歩や作業などを、毎日の決まった日課に組み込みます。決まった流れがあることで、本人が落ち着いて過ごしやすくなります
  • シンプルな環境をつくる:刺激が少なく、混乱しにくい環境を整えます
  • 目で見てわかる手がかりを使う:言葉の理解が難しい場合は、絵や写真などの視覚的な手がかりを活用します
  • トラブルを予測して備える:場にそぐわない行動が出やすい場面を予測し、事前に対応を考えておきます
  • 食べ方への対応:過食がある場合は、食べ物を見えるところに置かない、量を決めて出すなどの工夫をします
  • 叱らず、話題や場所を切り替える:行動を強く否定したり叱ったりするより、別の話題や活動に誘って切り替えるほうが、うまくいくことが多いです

音楽療法や作業療法などの活動が、感情の表現や心の安定に役立つこともあります。

運転・お金の管理への備え

  • 運転:判断力や行動のブレーキが弱まるため、運転には大きな危険が伴います。認知症と診断された場合は、主治医と相談のうえ、運転をやめることを考える必要があります。本人が納得しにくい場合は、主治医から伝えてもらうなど、家族だけで抱え込まない工夫をしてください
  • お金の管理:浪費や、悪質な勧誘によるトラブルを防ぐために、通帳やカードの管理を家族が手伝う、成年後見制度などの利用を検討するといった備えが大切です

若年性認知症の支援

働き盛りの世代で発症した場合、仕事や家計、子育てなど、生活のさまざまな面に影響が出ます。次のような支援や制度があります。

  • 若年性認知症コールセンター:0800-100-2707(無料)。若年性認知症の本人や家族の相談に応じています
  • 若年性認知症支援コーディネーター:各都道府県に配置されていて、仕事や制度の利用などについて相談できます
  • 指定難病の医療費助成:条件を満たすと、医療費の助成を受けられる場合があります
  • 自立支援医療・障害年金・介護保険:状態によって、医療費の負担軽減や年金、介護サービスなどを利用できる場合があります

どの制度が使えるかは、状態や年齢によって異なります。まずは、主治医や地域包括支援センター、若年性認知症支援コーディネーターに相談してみてください。

公認心理師の関わり

神経心理学検査

前頭側頭型認知症の評価では、特に前頭葉の機能に焦点を当てた検査が重要です。

  • HDS-R、MMSE:認知機能の全体像を把握するための検査です
  • 前頭葉評価バッテリー(FAB):前頭葉の機能を評価する検査です

前頭側頭型認知症では、記憶の検査の点数は比較的保たれていても、前頭葉の機能を評価する検査で特徴が現れることがあります。検査の結果は、診断の補助だけでなく、本人の残っている力や得意なことを把握し、生活の工夫を考えるうえでも大切な情報になります。

本人・家族への支援

前頭側頭型認知症では、特に家族への支援が大切です。

  • 心理教育:行動の背景にある脳の病気について説明し、理解を深めます
  • 行動への対応の相談:困っている行動について、具体的な対応方法を一緒に考えます
  • 気持ちのサポート:家族の悲しみやストレスに対するカウンセリングを行います

家族自身のケア

前頭側頭型認知症の介護は、特に負担が大きいといわれています。大切な家族の人柄が変わってしまったように感じる悲しみや、社会的に問題になる行動への対応は、家族に大きな心の負担をかけます。

「なぜこんな行動をするのか」を理解することで、負担が少し軽くなることがあります。そのうえで、デイサービスやショートステイなどを利用して休む時間を確保する、同じ立場の家族が集まる家族会で悩みを共有するなど、一人で抱え込まない工夫をしてください。

まとめ

  • 前頭側頭型認知症は、前頭葉と側頭葉が縮むことで、行動や性格、言葉の変化が起こる認知症です
  • 物忘れより先に「性格が変わった」という変化から始まることが多く、精神疾患などと間違えられやすい病気です
  • 社会的に問題になる行動は、本人の意思ではなく、病気によって行動のブレーキが効かなくなっている症状です
  • 環境の調整や接し方の工夫、若年性認知症の支援制度の活用が、生活を支える攻略法になります

前頭側頭型認知症の方への支援で最も大切なのは、「困った行動」の背景には脳の病気があることを理解することです。本人は自分の行動を制御することが難しくなっており、それは意図的なものではありません。

認知症の方は「困った人」ではなく「困っている人」です。この視点を持つことで、支援の方向性が大きく変わります。前頭側頭型認知症の方とその家族が、尊厳を保ちながら生活できる社会を目指して、私たち専門家も努力を続けていきたいと思います。

よくある質問

Q. 「性格が変わっただけ」ではないのでしょうか?

年齢とともに性格が多少変わることは誰にでもあります。ただし、中年期以降に、「別人のよう」と感じるほどの大きな変化が現れ、社会的なルールを守れない、同じ行動をくり返すといった変化が続く場合は、前頭側頭型認知症の可能性もあります。早めにもの忘れ外来などに相談してください。

Q. 仕事は続けられますか?

症状の程度や仕事の内容によって異なります。職場の理解や業務の調整によって、しばらく仕事を続けられる場合もあります。若年性認知症支援コーディネーターなどに相談しながら、本人と家族にとって無理のない形を考えていくことが大切です。

Q. 遺伝しますか?

欧米では家族性の例が少なくないと報告されていますが、日本では家族性の例は少ないとされています。心配な場合は、主治医に相談してください。

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日常生活に支障が出ているときは、医療機関や相談窓口を頼ってください。相談先の探し方、こころの健康相談統一ダイヤル(厚生労働省)も参考にしてください。

参考文献

  • 難病情報センター. 前頭側頭葉変性症(指定難病127). https://www.nanbyou.or.jp/
  • 黒川由紀子・扇澤史子(編). (2018). 認知症の心理アセスメント はじめの一歩. 医学書院.
  • 河野和彦. (2016). ぜんぶわかる認知症の事典: 4大認知症をわかりやすくビジュアル解説. 成美堂出版.
  • 川畑智. (2021). マンガでわかる! 認知症の人が見ている世界. 文響社.

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