「また発作が起きたらと思うと、電車に乗れない」
「人前で話すと、声が震えて変に思われそうで怖い」
不安症のつらさは、不安をなくそうとするほど、行ける場所やできることが少しずつ減っていくところにあります。避けているのは、気持ちが弱いからではありません。不安という警報が、そういう学び方をしやすい仕組みになっているのです。
不安症の治療で、効果がもっともよく調べられている心理療法が認知行動療法(CBT)です。ゲームにたとえるなら、CBTは専門家とパーティーを組んで、不安への対処スキルを一つずつ身につけていく攻略法です。
この記事では、不安症の治療として行う認知行動療法で実際に何をするのかを、パニック症・社交不安症・全般不安症での違いや、受けられる場所まで含めて解説します。不安が長引く仕組みや、ひとりでできる対処は「不安が止まらないのはなぜ?」、不安症の種類や症状は「不安症とは?」で詳しくまとめています。

CBTは、不安をゼロにする治療ではありません。不安があっても、自分のやりたいことを選べる範囲を少しずつ取り戻していく治療です。
この記事でわかること
- 不安症の認知行動療法とは何か、効果はどこまでわかっているか
- 不安を長引かせる仕組みと、CBTが働きかける4つのポイント
- CBTで使われる主な5つの技法
- パニック症・社交不安症・全般不安症での重点の違い
- 治療の流れと、保険で受けられるかどうか
- ひとりで取り組むときの注意と、相談の目安
注意: この記事は公認心理師の立場から情報提供を目的として書いています。診断・治療の断言はできません。気になる症状がある場合は、必ず専門家にご相談ください。
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不安症の認知行動療法とは?
不安を「消す」のではなく、つきあい方を学び直す治療
不安は本来、危険を知らせてくれる大切なアラームです。不安症では、このアラームが実際の危険よりも鳴りやすくなり、鳴るたびに怖い場面を避けることで、生活の範囲が狭くなっていきます。
認知行動療法は、物事の受け止め方(認知)と行動に働きかけて、こうした悪循環をほどいていく心理療法です(CBT全体については「認知行動療法(CBT)とは?」で解説しています)。目指すのは不安をゼロにすることではなく、不安があっても、その場で過ごしたり行動したりできるようになることです。
効果は多くの研究で確かめられている
不安症に対する認知行動療法の効果は、これまで多くの研究で確かめられてきました。
- プラセボ(有効成分の入っていない偽の薬など)と比べた41の研究をまとめて分析した研究では、不安症全体で中くらいの効果が示されています(Carpenter et al., 2018)
- 2021年に公開された日本の「社交不安症の診療ガイドライン」では、社交不安症のために開発された個人での認知行動療法を、慣れた治療者が決められた手順に沿って行うことが提案されています(日本不安症学会・日本神経精神薬理学会, 2021)
このガイドラインでも、推奨の強さは「弱い推奨」とされています。ただしこれは、「効果が疑わしい」という意味ではありません。心理療法の研究ならではの難しさや、日本での研究・治療を受けられる体制がまだ十分でないことを反映したものです。くわしくは強迫症の認知行動療法の記事で説明しています。
病気ごとに専用のプログラムがある
不安症の認知行動療法には、どの病気にも共通する土台があります。そのうえで、パニック症・社交不安症・全般不安症など、それぞれの病気の悪循環に合わせた専用のプログラムが開発されてきました(Clark, 1986; Clark & Wells, 1995; Dugas et al., 1998)。
日本でも、厚生労働省の研究事業で、社交不安障害(社交不安症)とパニック障害(パニック症)の認知行動療法の治療者用マニュアルがまとめられ、公開されています(吉永・清水; 関・清水)。この記事では、まず共通の土台を説明し、そのあとで病気ごとの違いを紹介します。
不安を長引かせる仕組みと、CBTが働きかけるところ
認知行動療法では、不安が長引くのは「ひとつの原因」のせいではなく、考え・体の反応・注意・行動がぐるぐると回る悪循環のせいだと考えます。下の図は、人前で話すのが怖い場合の例です。

①悪い予想(破局的な受け止め方)
「声が震えたら、変な人だと思われる」「ドキドキするのは、心臓が止まる前ぶれだ」のように、起こりうる結果を実際より悪く、確かなものとして予想してしまいます。CBTでは、この予想を「事実」ではなく「確かめてみる価値のある考え」として扱います。
②不安と体の反応
悪い予想をすると、ドキドキする、顔が熱くなる、息苦しくなるといった体の反応が起こります。これは危険に備えるための自然な反応ですが、その反応自体を「やっぱり危ない」というサインと受け取ると、不安はさらに強くなります。
③注意の偏り
不安が強いときは、自分の体の感覚や、「失敗しているサイン」ばかりに注意が向きやすくなります。注意がそこに集中するほど、小さな変化も大きく感じられ、周りの人の実際の反応は目に入らなくなります。
④回避と安全行動
怖い場面を避ける(回避)、または「原稿をそのまま読む」「必ず誰かと一緒に行く」など、不安を和らげるための工夫(安全行動)をします。その場は楽になりますが、「避けたから無事だった」という学習が残り、悪い予想は確かめられないまま強くなっていきます。
ゲームでいえば、戦闘のたびに「にげる」を選んでいるような状態です。その場は安全でも、経験値は入りません。不安が長引く仕組みのくわしい解説は、「不安が止まらないのはなぜ?」を参考にしてください。
CBTで使われる主な5つの技法

病気によって重点は変わりますが、不安症の認知行動療法では、主に次の5つの技法を組み合わせて使います。
①心理教育:不安の仕組みを知る
最初に、不安や体の反応がなぜ起こるのか、なぜ避けるほど不安が強くなるのかを学びます。たとえばパニック発作はとても苦しいものですが、発作そのもので命を落とすことはないとされています。ただし、体の病気が隠れていないかは、先に医療機関で確かめておくことが大切です。仕組みを知るだけでも、「自分だけがおかしいのでは」という不安が和らぐことがあります。
②自分の悪循環を図にする
次に、実際に不安になった場面を思い出し、そのときの考え・体の反応・注意・行動を、上の図のような形で整理します。治療者と一緒に「自分の悪循環の図」をつくることで、どこから手をつければよいかが見えてきます。出来事・気分・考え・行動のつながりを整理するときは、心の仕組み図シートも使えます。
③考え方の見直し(認知再構成)
「変な人だと思われる」といった悪い予想について、それを支える根拠と、そうとは言い切れない理由を両方書き出し、もう少し現実に近い見方を探します。書き方は「認知再構成法の書き方」で、記入例つきで紹介しています。ブラウザで使える認知再構成法シートもあります。
④曝露と行動実験:予想を確かめる
不安な場面に、取り組みやすいものから少しずつ近づいていく練習が曝露(エクスポージャー)です。さらに、安全行動をあえてやめて「本当に予想どおりのことが起こるか」を確かめる練習を行動実験と呼びます。
最近の研究では、不安が下がることに加えて、「心配していたことは、実際には起こらなかった」という予想が外れる体験が、新しい学びとして記憶に残ると考えられています(Craske et al., 2014)。怖い場面を不安度の順に並べて一段ずつ挑戦するときは、不安階層表(エクスポージャーのはしご)の無料ツールが使えます。
⑤再発予防:自分で続けられるようにする
治療の終わりには、何が役に立ったのか、また不安が強くなりそうなときにどうするかを整理します。最終的な目標は、治療で身につけた方法を使って、自分が自分の治療者になることです。

不安症のCBTでは、面接の中で話すだけでなく、宿題として日常生活の中で練習することがとても大切です。面接と面接のあいだの練習が、回復を後押しします。
病気ごとの重点の違い:パニック症・社交不安症・全般不安症
共通の土台は同じでも、病気によって「悪循環のどこが中心になっているか」が違います。そのため、治療で重点的に取り組むことも変わります。
| パニック症 | 社交不安症 | 全般不安症 | |
|---|---|---|---|
| 悪い予想 | 体の感覚は、命にかかわる発作の前ぶれだ | 人前で失敗して、否定的に見られる | 何か悪いことが起きるかもしれない(心配が次々に広がる) |
| 回避・安全行動 | 電車や人混みを避ける、すぐ逃げられる場所にいる、薬や水を必ず持ち歩く | 人前に出る場面を断る、目を合わせない、話す内容を何度も頭の中で練習する | 何度も確かめる、調べ続ける、ほかの人に「大丈夫」と言ってもらう |
| CBTの重点 | 体の感覚の受け止め方の見直し、避けている場所への段階的な曝露 | 自分への注目と安全行動を減らす、行動実験で予想を確かめる | 心配のくせに気づく、「わからないこと」に少しずつ慣れる |
パニック症:体の感覚の「読み違え」を見直す
パニック症では、動悸や息苦しさといった体の感覚を、「心臓発作だ」「このまま倒れる」と破局的に読み違えることが、発作をくり返す悪循環の中心にあると考えられています(Clark, 1986)。
治療では、体の感覚の受け止め方を見直し、行動実験で「安全行動をしなくても大丈夫だった」という経験を積んでいきます。電車や人混みなどを避けている場合(広場恐怖症)は、避けている場所に段階的に近づく練習も行います。動悸などの体の感覚にあえて慣れていく練習を取り入れるプログラムもありますが、持病によっては注意が必要なため、医師と相談しながら進めます。パニック症そのものについては「パニック症とは?」で解説しています。
社交不安症:自分への注目と安全行動を手放す
社交不安症の代表的なモデルでは、人前に出ると注意が自分の内側に向き、「顔が真っ赤になっているはずだ」といった否定的な自分のイメージを、そのまま周りからの見え方だと思い込んでしまうと考えます。さらに、目を合わせない、話す内容を準備しすぎるといった安全行動が、かえって不自然さや不安を強めてしまいます(Clark & Wells, 1995)。
厚生労働省のマニュアルでは、週1回・50分、計12〜16回の面接が基本とされています(吉永・清水)。安全行動をやめたときとそのままのときを比べる練習、話している自分を録画して実際の見え方を確かめる練習(ビデオフィードバック)、注意を自分の内側から相手や会話に向け直す練習、行動実験などを組み合わせて進めます。言いたいことを伝える練習には、アサーション(DESC法)も役立ちます。
全般不安症:心配のくせと「わからなさ」に向き合う
全般不安症では、仕事・家族・健康など、さまざまなことへの心配が止まらなくなります。代表的なモデルでは、「先のことがわからない状態」に耐えにくいことが、心配を続けさせる大きな要因の一つと考えられています(Dugas et al., 1998)。
治療では、自分が心配していることに気づき、「解決できる問題」と「今はわからないこと」を分けて扱います。解決できる問題には問題解決技法で取り組み、わからないことには、確認や調べものを少しずつ減らしながら慣れていく練習をします。心配がぐるぐる続くときは「ぐるぐる思考から抜け出すCBTの6ステップ」、今の不安の強さを振り返るときは不安症状セルフチェック(GAD-7参考)も参考にしてください。
治療の流れと受け方
治療の流れの目安
厚生労働省のマニュアルをもとにすると、医療機関での認知行動療法は、おおむね次のような流れで進みます(吉永・清水; 関・清水)。
- アセスメント:症状や生活の様子を聞き取り、治療の目標を決める
- 悪循環の図づくり:実際の場面をもとに、自分の悪循環を整理する
- 技法の練習:考え方の見直し、行動実験、曝露などを、面接と宿題でくり返す
- 再発予防:役に立ったことを振り返り、これからの対処を整理する
回数の目安は、週1回のペースで十数回です。治療が終わったあとに、1か月後・3か月後・半年後などに様子を確かめる面接(フォローアップ)を行うこともあります。
保険診療で受けられるか(2026年10月時点)
医療機関で行う認知行動療法は、対象となる病気であれば、条件を満たした場合に保険診療で受けられます。
- 対象となる病気:うつ病などの気分障害、強迫性障害、社交不安障害、パニック障害、心的外傷後ストレス障害(PTSD)、神経性過食症、不眠症です。全般不安症は含まれていません。
- 医師が行う場合:決められたマニュアルに沿って行う場合に、一連の治療で16回まで算定できます。
- 公認心理師が行う場合:2026年度の診療報酬改定で、公認心理師が医師の指示のもとで行う「認知行動療法的アプローチに基づく心理支援」が新しく評価されるようになりました。ただし、医療機関の体制や公認心理師の研修などの要件があり、実施できる医療機関は限られます。
なお、2021年の社交不安症の診療ガイドラインには「医師以外の公認心理師等が行う場合の保険適応は未承認」と書かれていますが、これは2026年度の改定前の情報です。全般不安症の場合は、自費のカウンセリングなどで認知行動療法を受けることになります。実際に保険で受けられるかどうかは、医療機関に直接確認してください。
相談先を探すときに確認したいこと
強迫症と同じく、不安症の認知行動療法も、専門的に行える治療者や医療機関はまだ多くありません。「認知行動療法を行っています」と掲げていても、うつ病のCBTが中心のこともあります。予約や相談の前に、次のような点を確認しておくと安心です。
- 自分の病気(パニック症・社交不安症など)に対する認知行動療法を行っているか
- 1回の面接時間と頻度、全体のおおよその回数
- 保険診療か自費か、1回あたりの費用
- 宿題や記録を使って進めるか
受診先に迷うときは「精神科と心療内科の違い」、カウンセリングの探し方は「カウンセリングはどこで受ける?」で整理しています。
ひとりで取り組むときの注意
社交不安症のガイドラインでは、対面での認知行動療法を希望しない場合に、認知行動療法にもとづくサポートつきのセルフヘルプ(専門家の支えを受けながら、本などの教材で取り組む方法)も提案されています(日本不安症学会・日本神経精神薬理学会, 2021)。本で練習するなら、認知療法の代表的なワークブック『うつと不安の認知療法練習帳』があります。
ただし、次のような場合は、ひとりで抱えずに医療機関に相談してください。
- 不安のために、仕事・学校・家事など生活に大きな支障が出ている
- 避けている場所や場面が増え続けている
- 気分の落ち込みが続いている、消えてしまいたい気持ちがある
- お酒などで不安をまぎらわすことが増えている
まとめ:不安があっても、選べる行動を増やしていく
この記事で解説した内容を振り返ります。
- 不安症の認知行動療法は、不安を消すのではなく、不安があっても行動できる範囲を取り戻す治療
- CBTは、悪い予想・体の反応・注意の偏り・回避と安全行動という悪循環の4つのポイントに働きかける
- 主な技法は、心理教育、悪循環の図づくり、考え方の見直し、曝露と行動実験、再発予防の5つ
- パニック症は体の感覚の受け止め方、社交不安症は自分への注目と安全行動、全般不安症は心配と「わからなさ」が重点になる
- 医師や公認心理師が行う認知行動療法は、パニック障害や社交不安障害では保険の対象になるが、全般不安症は対象外
- 専門家はまだ多くないため、相談先を探すときは「自分の病気のCBTを行っているか」を確認する
不安な場面で「にげる」を選ぶのは、自分を守ろうとする自然な反応です。けれど、「考え方を見直す」「少しだけ近づいてみる」「安全行動を一つ手放してみる」といったコマンドが増えていくと、選べる行動の幅は確実に広がっていきます。
完璧に進める必要はありません。ひとりで抱え込まず、専門家の力も借りながら、あなたのペースで一歩ずつ進んでいきましょう。
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▶ 次のステップ
① 不安と向き合う無料ツール
- 不安階層表(エクスポージャーのはしご)怖い場面を不安度の順に並べ、一段ずつ挑戦する
- 認知再構成法シート(7コラム法)悪い予想を、根拠と反証から見直す
- 不安症状セルフチェック(GAD-7参考)この2週間の不安の強さを7問で振り返る
※ セルフチェックは診断ではなく、ふりかえりの目安です。
③ つらさが続くときは、ひとりで抱えない
日常生活に支障が出ているときは、医療機関や相談窓口を頼ってください。相談先の探し方、こころの健康相談統一ダイヤル(厚生労働省)も参考にしてください。
執筆・監修:公認心理師・だびで | だびでの心理室
参考文献
- Carpenter, J. K., Andrews, L. A., Witcraft, S. M., Powers, M. B., Smits, J. A. J., & Hofmann, S. G. (2018). Cognitive behavioral therapy for anxiety and related disorders: A meta-analysis of randomized placebo-controlled trials. Depression and Anxiety, 35(6), 502–514. https://doi.org/10.1002/da.22728
- Clark, D. M. (1986). A cognitive approach to panic. Behaviour Research and Therapy, 24(4), 461–470. https://doi.org/10.1016/0005-7967(86)90011-2
- Clark, D. M., & Wells, A. (1995). A cognitive model of social phobia. In R. G. Heimberg, M. R. Liebowitz, D. A. Hope, & F. R. Schneier (Eds.), Social phobia: Diagnosis, assessment, and treatment (pp. 69–93). Guilford Press.
- Craske, M. G., Treanor, M., Conway, C. C., Zbozinek, T., & Vervliet, B. (2014). Maximizing exposure therapy: An inhibitory learning approach. Behaviour Research and Therapy, 58, 10–23. https://doi.org/10.1016/j.brat.2014.04.006
- Dugas, M. J., Gagnon, F., Ladouceur, R., & Freeston, M. H. (1998). Generalized anxiety disorder: A preliminary test of a conceptual model. Behaviour Research and Therapy, 36(2), 215–226. https://doi.org/10.1016/S0005-7967(97)00070-3
- 関陽一(執筆・編集)・清水栄司(監修). パニック障害(パニック症)の認知行動療法マニュアル(治療者用). 厚生労働省.
- 日本不安症学会・日本神経精神薬理学会(監修). (2021). 社交不安症の診療ガイドライン(第1版).
- 吉永尚紀(執筆・編集)・清水栄司(監修). 社交不安障害(社交不安症)の認知行動療法マニュアル(治療者用). 厚生労働省.
- 厚生労働省. (2026). 令和8年度診療報酬改定 医科診療報酬点数表 I003-2 認知療法・認知行動療法.
- グリーンバーガー, D.・パデスキー, C. A. (2017). 『うつと不安の認知療法練習帳』(大野裕, 監訳; 岩坂彰, 訳; 増補改訂版). 創元社.(原著出版 2016) [Amazon|楽天]
※本記事は上記文献をもとに、公認心理師・だびでが執筆時点(2026年10月)の情報で構成しています。


