認知再構成法の書き方|書けないときの7つの記入ポイントと3つの記入例

「状況と自動思考の違いがわからない」

「根拠は書けるけれど、反証がまったく思いつかない」

「適応的思考を書くと、無理やり前向きなきれいごとになる」

認知再構成法のシートを開いたものの、空欄のまま手が止まってしまうことはありませんか。

書けないのは、あなたが認知再構成法に向いていないからではありません。シートの項目は似て見えますが、それぞれに書くものが異なります。特に、感情と思考、根拠と反証の分け方は、最初はつかみにくい部分です。

先に結論を言うと、認知再構成法は「正しい答え」を書く宿題ではありません。心が大きく揺れた一場面を切り取り、そのときに浮かんだ考えを、裁判で証拠を確かめるように検討する作業です。

この記事では、各欄の書き方を確認したうえで、仕事、人間関係、予定どおりに動けなかった場面の3つの記入例を紹介します。

この記事は、認知再構成法を知っていて、実際に書こうとして手が止まった方向けです。認知再構成法そのものの考え方や効果を先に知りたい方は、「認知再構成法とは」をお読みください。

だびで
だびで

全部の欄を最初から埋めなくても大丈夫です。まずは「状況・感情・自動思考」の3つから始めてみましょう。

この記事でわかること

  • 心が揺れた「状況」の切り取り方
  • 感情と自動思考を分けるコツ
  • 思考のパターン(考え方のクセ)の見つけ方
  • 根拠と反証に書く「事実」の見つけ方
  • 無理のない適応的思考の作り方
  • 記入後の振り返りを次回に生かす方法

注意: この記事は公認心理師の立場から情報提供を目的として書いています。診断・治療の断言はできません。気になる症状がある場合は、必ず専門家にご相談ください。

認知再構成法が書けないときの4つの前提

認知再構成法(7コラム法)は、状況、感情、自動思考、根拠、反証、適応的思考、感情の再評価の7つの欄を書き分けながら、自分の考えを検討する方法です。認知行動療法(CBT)の中で、考え方(認知)に働きかける代表的な技法の一つです。

ただし、記入表は簡単そうに見えても、実際に一人で書くと難しいことがあります。まずは次の4つを覚えておいてください。

①感情が強く動いた一枚の「写真」を選ぶ

状況欄に「今週は仕事がうまくいかなかった」と書くと、扱う範囲が広すぎてホットな自動思考を捉えることが難しくなります。

大切なのは、一連の出来事の中から、最も感情が強く動いた瞬間を一つ選ぶことです。

たとえば、仕事でミスをした一日全体ではなく、「上司から修正を求められたメッセージを読んだ瞬間」を切り取ります。映像の一場面で一時停止するイメージです。

攻略する場面は、小さく具体的に絞るのがコツです。

②全部埋めようとしない

最初から完成した7コラムを作る必要はありません。まずは次の3項目だけでも構いません。

  • 何があったか
  • どんな感情が出たか
  • その瞬間に何が頭に浮かんだか

これは「3コラム法」とも呼ばれます(大野, 2003)。

まずは状況・感情・自動思考を区別して書けるようになってから、根拠や反証などの後半の検討へ進むのがおすすめです。

③気分をゼロにすることをゴールにしない

認知再構成法は、つらい感情を消す魔法ではありません。

不安が90%から60%に下がることもあれば、数字がほとんど変わらないこともあります。「自分は今、このように受け取っていたのか」と気づけただけでも、次の検討の土台になります。

思考の記録は、正解・不正解を採点する作業ではありません。考えがすぐに変わらない日があっても、それは失敗ではなく、自分の受け取り方を観察できたという大切な一歩です。

④認知の問題なのか、現実的な問題なのかを見極める

まず、取り上げようとしている場面が「受け取り方(認知)による苦しさ」なのか、「現実に解決が必要な問題」なのかを見極めましょう。たとえば「タスクが多すぎて、仕事が進まない」という場面なら、必要なのは考え方の検討よりも問題解決かもしれません。

一方、「上司に注意されてから、仕事のやる気が起きない」という場合は、注意された場面を題材に認知再構成法を行うと、解決の糸口が見つかるかもしれません。

ゲームでも、相手の種族や弱点に合わせてスキルを使い分けます。それと同じように、まずは何が問題なのかを見極めることが大切です。

すぐに記入したい方は、無料の認知再構成シートを開き、この記事と見比べながら進めてみてください。

認知再構成法の書き方|7つの記入ポイント

ここからは、認知再構成法の各欄に何を書くのかを、記入する順番に確認します。

ステップ1:状況は「心が最も揺れた一場面」を書く

認知再構成法は、悲しさや不安、つらさなど、感情が大きく動いた場面を扱うことが前提です。

まず、一連の出来事の中で、感情が最も強く出た瞬間を思い出します。状況欄には、自分の評価や推測を入れず、カメラで撮影したように客観的に書きます。

×「上司があきれて、私を見放した」

○「上司が資料の数字を指し、『ここを修正してください』と言った」

「いつ、どこで、誰と、何があったか」を短く書くと、自動思考と分けやすくなります。

だびで
だびで

状況欄に「つらかった」「ひどい」などの言葉が入っていたら、それは感情や評価かもしれません。いったん感情欄に移してみましょう。

ステップ2:感情は一言で表し、0~100%で強さを書く

感情を書くときのよくある間違いは、自動思考を書いてしまうことです。感情は、「悲しい」「怒り」「悔しさ」「不安」「恥ずかしさ」「罪悪感」など、基本的に一言で言い切れる言葉で表します。

×「嫌われた」

○「不安」「悲しさ」

「嫌われた」は、相手の気持ちに対する考えです。それによって生まれた心の反応が「不安」や「悲しさ」です。

ただし、一つの場面で一つの感情に絞る必要はありません。思いつく感情をいくつか書き、それぞれの強さを0~100%で記録してみましょう。

不安85%、悲しさ70%、怒り20%

数値を並べると、その場面でどの感情が最も強かったかが見えやすくなります。数字は正確でなくても構いません。自分の感覚で決めることが大切です。

ステップ3:自動思考は「言い切り」の形にする

自動思考は、その瞬間に頭に浮かんだ考えやイメージです。ただし、「また失敗するだろうか」のように疑問形にすると、中心となる予測が見えにくくなります。

次のように、そのとき信じていた結論を言い切りの形にしてみます。

×「また失敗するだろうか」

○「私はまた失敗する」

×「嫌われたかもしれない」

○「相手は私を嫌っている」

×「悪い結果になるかもしれない」

○「このままだと必ず悪い結果になる」

これは、悲観的な考えを強めるためではありません。その瞬間、自分が実際にどのような結論を信じたかをはっきりさせるためです。

「私はどんな人間だと感じたか」「相手は私をどう見ていると思ったか」「未来に何が起こると確信したか」と問うと、自動思考をつかみやすくなります。

このとき、もう一つ大切なのが「ホットな自動思考」を探すことです。ホットな自動思考とは、最も強い感情と結びついている自動思考のことです(Beck, 2020/2023)。感情と結びつかない考えを検討しても、気持ちの変化につながりにくくなります。

ステップ4:思考のパターン(考え方のクセ)に名前をつける

自動思考を書いたら、その考えにどのような「思考のパターン」が含まれているかを確認します。思考のパターンとは、気持ちが大きく揺れたときに出やすい考え方のクセのことで、「認知の歪み」とも呼ばれます。

代表的なものには、次のようなパターンがあります。

  • 全か無か思考:物事を「完璧な成功」か「完全な失敗」の二択で判断する
  • 破局視:根拠が少ないまま、「最悪の結果になる」と決めつける
  • 過度の一般化:一度や二度の出来事を「いつも」「何をやっても」と広げる
  • 心のフィルター:全体の中から、悪いことだけを拾い上げて注目する
  • 読心術:確かめていないのに、相手の気持ちを決めつける

パターンに名前をつけると、自動思考を「事実」ではなく「一つの考え」として、少し距離を置いて眺めやすくなります。ゲームでいえば、敵の攻撃パターンを見抜くようなものです。

ただし、正しいパターン名を当てることが目的ではありません。迷ったら「〇〇っぽい」くらいで構いませんし、一つの考えに複数のパターンが当てはまることもよくあります。

ここで挙げたのは代表的な5つで、名前は「10の思考パターン」の記事にそろえています。それぞれのパターンを詳しく知りたい方は、「思考の癖に気づく|認知行動療法(CBT)で学ぶ10の思考パターン」も参考にしてください。

ステップ5:根拠と反証に「裁判で提出できる事実」を書く

根拠は、自動思考を支持する事実です。反証は、自動思考がそのまま事実とは限らないことを示す事実です(Centre for Clinical Interventions, n.d.)。

どちらも、裁判で証拠として提出できるかという基準を目安にしてください。

根拠の例

×「私は何度も失敗している」

○「今月、資料の数字を間違えて、上司から修正を求められた」

反証の例

×「でも、私にはいいところもある」

○「先月の資料は期限内に提出し、修正なしで受理された」

反証は、自動思考と反対のポジティブな意見を書く欄ではありません。「そう考えたくなる根拠はある。一方で、この事実も判断材料に入るのではないか」と検討します。

反証がなかなか浮かばない人は少なくありません。自動思考を中心とした見方に飲み込まれていたり、自己批判が強くなっていたりして、反証を認めにくくなっていることが多いためです。一度、他人の出来事として考えてみたり、「え、そんなことでいいの?」と思えるくらい小さな事実から探したりすると、書きやすくなることがあります。

次の質問も反証を探すヒントになります。

  • この考えに当てはまらなかった例外はあるか
  • 同じ状況の友人がこう考えていたら、どの事実を伝えるか
  • 自分の行動以外に、結果に影響した条件はあるか
  • 誰かに助けられたり、自分で修正したりした事実はあるか

ステップ6:適応的思考は「根拠→反証→結論」で書く

適応的思考は、自動思考を消すための前向きな考えというわけではありません。自動思考を支持する根拠と、反証の両方を含めた、より幅のある考えのことです(Beck, 2020/2023)。

次の順序で書くと、きれいごとになりにくくなります。

  1. そう考えた根拠を認める
  2. 反証となる事実も加える
  3. 自動思考が事実とは限らないとまとめる
  4. 必要であれば、今できる対応を一つ加える

基本の型

たしかに〔根拠となる事実〕はあるので、〔自動思考〕と考えたくなる。

ただし、〔反証となる事実〕もある。

そのため、〔自動思考〕がそのまま事実とは限らない。

今できることは、〔具体的な対応〕である。

書き終えたら、その適応的思考を自分がどのくらい信じられるか、0~100%の確信度で記録します。

確信度が10%しかないなら、無理がある文章かもしれません。「絶対に大丈夫」を「現時点では、悪い結果になると決まったわけではない」に変えるなど、今の自分が少しでも信じられる表現に調整しましょう。

ステップ7:感情を再評価し、次回の対策まで考える

適応的思考を書いたら、声に出すか、心の中でゆっくり読み返します。そのうえで、最初に記録した感情がどのくらいになったかを、もう一度0~100%で書きます。

不安85% → 50%

ここで終わりではありません。最後に、次の3点を振り返ります。

  • そのときは、なぜこれほど感情が強くなったのか
  • 適応的思考を読んだあと、なぜ感情が変化したのか
  • 同じような状況が起きたら、次はどう考え、どう行動するか

一回で思考のクセが消えるわけではありません。記録と振り返りを重ねることで、似た状況に出会ったときに、「前にも同じ結論を急いだことがあった」と気づきやすくなります。この積み重ねが、考え方の柔軟性を育てる練習になります。

記入例1:仕事でミスをして「自分は何をやってもダメだ」と思った

最初の例は、仕事での一度のミスから、自分の能力や人間性全体を否定してしまった場面です。

なお、記入例では7つの欄に加えて、思考のパターン・適応的思考の確信度・振り返りと次回の対策も書いています。

項目記入例
状況 今日15時、上司から、取引先へ送った資料の数字が間違っていると指摘された。「修正して、再送してください」と言われた
感情 落ち込み90%、恥ずかしさ80%、不安70%
自動思考 「私は何をやってもダメな人間だ」「上司は私に仕事の能力がないと思っている」
思考のパターン 過度の一般化、心のフィルター、読心術
根拠 今回の資料で数字を間違えた。提出前に元データと照合していなかった
反証 間違いに気づいたあとはすぐに修正した。先月提出した2つの資料は修正なしで受理された。上司から「能力がない」とは言われていない
適応的思考 「今回、確認不足で数字を間違えたのは事実だ。ただし、正しく完成させた資料もあり、修正対応もできた。今回のミスだけで、私が何をやってもダメな人間だとは限らない。次回は、送信前に元データとの照合欄をチェックリストに加えよう」
適応的思考の確信度 70%
感情の再評価 落ち込み90%→55%、恥ずかしさ80%→50%、不安70%→40%
振り返りと次回の対策 「一度のミスを自分の能力全体へ広げたため、落ち込みが強くなった。完成できた仕事も思い出すと、自分全体への判決ではなく、今回の確認手順の問題として考えられた。次は、チェックリストを使う」

ここでのポイントは、「ミスをした」と「自分はダメな人間だ」を分けることです。

ミスをなかったことにする必要はありません。変えられる行動は振り返りつつ、一つの行動から人格全体へ判決を広げていないかを確かめます。

失敗を自分の欠陥だけで説明してしまうときは、「CBTの理論A・理論Bとは?」も参考になります。

記入例2:メッセージに返信がなく「嫌われた」と思った

次は、相手から返信がないという出来事から、相手の気持ちを否定的に推測した場面です。

項目記入例
状況 昨日21時に友人へメッセージを送った。既読がついたが、翌日の12時になっても返信がなかった
感情 不安85%、悲しさ70%、孤独感60%
自動思考 「私は失礼なことを言った」「相手は私を嫌っている」「このまま関係が終わる」
思考のパターン 読心術、個人化、破局視
根拠 普段はその日のうちに返信が来ることが多い。今回は送信してから15時間ほど返信がない
反証 相手から「嫌い」や「怒っている」と言われていない。先週会ったときは普段どおり話していた。過去にも、仕事が忙しくて翌日まで返信がなかったことがある
適応的思考 「普段より返信が遅いので、嫌われたと考えたくなっている。ただし、怒っていると言われたわけではなく、以前も忙しくて返信が遅れたことがあった。そのため、返信がないことだけで嫌われたとは限らない。今は結論を急がず、明日まで待ってみよう」
適応的思考の確信度 75%
感情の再評価 不安85%→45%、悲しさ70%→35%、孤独感60%→40%
振り返りと次回の対策 「返信がないという事実から、嫌われたと決めつけたため、不安が強くなった。今は相手の気持ちを確認できていないと気づくと、不安が下がった。今後は返信が遅いとき、『返信がない』と『嫌われた』を分け、24時間は結論を保留する」

この例では、「忙しいに違いない」と反対方向に決めつけているわけではありません。

相手がなぜ返信していないかは、その時点ではわかりません。「嫌われた」という可能性だけを事実のように扱わず、まだわからないことは保留するのがポイントです。

返信待ちの間に同じ考えが繰り返し浮かぶ場合は、「ぐるぐる思考(反芻思考)から抜け出すCBTの6ステップ」も参考にしてください。

記入例3:予定どおり行動できず「自分は意志が弱い」と思った

最後は、予定どおりに行動できなかったことを、自分の意志や性格だけで説明した場面です。

項目記入例
状況 日曜日の9時から10時まで資格試験の勉強をする予定だった。ベッドでスマートフォンを見続け、12時になった
感情 罪悪感80%、落ち込み70%、焦り65%、悔しさ60%
自動思考 「私は意志が弱い人間だ」「私は何を始めても続かない」「この調子では必ず試験に落ちる」
思考のパターン 過度の一般化、全か無か思考、破局視
根拠 今日は9時から勉強を始められなかった。先週の日曜日も、9時からの予定を実行できなかった
反証 平日は始業の約20分前に出勤している。先週は火曜日と木曜日に20分ずつ勉強した。前夜は帰宅が遅く、睡眠時間が5時間だった。予定は「1時間勉強する」だけで、最初に開く教材や取り組む範囲を決めていなかった
適応的思考 「2週続けて日曜日の9時から勉強できなかったので、意志が弱いと感じている。ただし、実行できた日もあり、今日は睡眠不足と予定の曖昧さも影響した可能性がある。日曜日の予定を守れなかったことだけで、何も続けられない人間とは限らない。今は教材の3ページ目を開き、5分だけ読んでみよう」
適応的思考の確信度 65%
感情の再評価 罪悪感80%→45%、落ち込み70%→40%、焦り65%→45%、悔しさ60%→50%
振り返りと次回の対策 「予定の失敗を意志の弱さだけで説明したことで、罪悪感が強くなった。実行できた日や体調、予定の具体性も考えると、性格だけの問題ではないと思えた。次の日曜日は『9時に机に座ったら、教材の第2章を開き、5分読む』と予定する」

この例では、認知を見直すだけではなく、次に試す小さな行動まで決めています。

認知再構成法は、予定どおりにできなかった自分を正当化するための方法ではありません。その日に動けなかった条件を分解し、次はどの条件を変えられるかを考えます。

予定の立て方自体も見直したい方は、「時間管理ができない5つの原因と攻略法」や「習慣化のコツ4選」を参考にしてください。「5分だけ読む」のように行動を小さく刻むコツは、「スモールステップ攻略法(段階的課題設定法)」で詳しく紹介しています。気分と行動のパターンを把握したいときは、活動記録表も利用できます。

だびで
だびで

気持ちが少ししか変わらなくても失敗ではありません。「別の見方もある」と気づけたことが大切です。

それでも認知再構成法が書けないときは?

感情が強すぎる場面は後回しにする

感情が100%に近い状態では、出来事を言葉にしたり、別の見方を考えたりするのが難しくなることがあります。

まずはその場から離れる、水分をとる、ゆっくり呼吸するなど、少し落ち着くための対応を優先してください。最初の練習では、100%に近い最もつらい出来事より、比較的落ち着いて振り返れる場面を選ぶと扱いやすいです。また、どうしてもつらい経験は一人で抱え込まず、信頼できる人や専門家と一緒に取り組むこともおすすめします。

自動思考が見つからないときは「一番怖いこと」を問う

そのとき、頭の中に完成した文章が浮かんでいたとは限りません。「やばい」「終わった」という短い言葉や、失敗する場面のイメージだけかもしれません。

その場合は、次のように自分に問いかけてみます。

  • 「やばい」とは、何が起きそうだと思ったのか
  • それが起きたら、自分にとってどんな意味があるのか
  • その瞬間、一番怖かったことは何か

反証が思いつかないときは「例外」を一つ探す

自動思考を完全に覆す証拠は必要ありません。

「何をやってもダメだ」に対しては、過去に一つでも完成できた仕事があれば、「何をやっても」の部分を再検討できます。

「嫌われた」に対しても、「嫌われていないという絶対的な証拠」ではなく、「相手の気持ちはまだ確認できていない」という事実が判断材料になります。

適応的思考を信じられないときは、表現を弱める

「私は必ずうまくできる」と書いても信じられないなら、もっと中立的な言葉に調整します。

「必ずうまくいく」

→「うまくいかない可能性もあるが、失敗すると決まったわけではない」

「相手は絶対に怒っていない」

→「相手がどう感じているかは、まだわからない」

「本当にそう思っているとは限らない」程度でも構いません。最初から100%信じられる考えを作る必要はありません。

シートに合わない問題は、別のツールを選ぶ

目の前に具体的な問題がある場合は、考え方を検討するだけでなく、実際の問題を整理する必要があります。

また、ハラスメント、暴力、差別、過重労働などの現実的な危険を、本人の「考え方」の問題に置き換えてはいけません。その場合は、認知を変えることよりも、安全の確保、環境調整、適切な相談先につながることが優先です。

記入することで苦しさが強くなる、日常生活に大きな影響が出ている、自分を傷つけたい気持ちや死にたい気持ちがあるときは、セルフワークだけで抱えず、医療機関や公認心理師・臨床心理士などの専門家に相談してください。

受診先に迷うときは、「精神科と心療内科の違い」で相談先の選び方や緊急時の相談先を紹介しています。今すぐつらい気持ちを誰かに聞いてほしいときは、「いのちの電話」や、厚生労働省の「まもろうよ こころ」に掲載されている電話・SNS相談窓口も利用できます。

まとめ:正解を書くのではなく、一つの考えに閉じ込められていないか確かめよう

この記事で解説した内容を振り返ります。

  • 状況は、一連の出来事の中から最も感情が強く出た一場面を切り取る
  • 感情は一言で表し、複数あればすべての強さを0~100%で書く
  • 自動思考は「私は失敗する」など、その瞬間の結論を言い切る
  • 自動思考に含まれる思考のパターン(考え方のクセ)に名前をつけ、少し距離を置いて眺める
  • 根拠と反証には、裁判で証拠として提出できるような具体的な事実を書く
  • 適応的思考は、根拠と反証の両方を含め、「自動思考が事実とは限らない」とまとめる
  • 最後に感情を再評価し、気持ちが強くなった理由、落ち着いた理由、次回の対策を考える

認知再構成法の目的は、ネガティブな考えをすべてポジティブに書き換えることではありません。

「この考えには根拠がある。ただし、別の事実もある」と、一歩引いて検討できれば十分です。

最初から全部埋める必要はありません。まずは「何があったか」「何を感じたか」「何が頭に浮かんだか」の3つだけでも記録してみてください。それが、自分の考え方を柔軟にしていく最初のセーブポイントになります。

次の一歩

執筆・監修:公認心理師・だびで | だびでの心理室


参考文献

  • Centre for Clinical Interventions. (n.d.). Depression: Back from the Bluez. Government of Western Australia. https://www.cci.health.wa.gov.au/Resources/Looking-After-Yourself/Depression (2026年9月29日閲覧)
  • National Health Service. (n.d.). Thought record. Every Mind Matters. https://www.nhs.uk/every-mind-matters/mental-wellbeing-tips/self-help-cbt-techniques/thought-record/ (2026年9月29日閲覧)
  • 大野裕. (2003). 『こころが晴れるノート:うつと不安の認知療法自習帳』. 創元社.
  • ベック, J. S. (2023). 『認知行動療法実践ガイド:基礎から応用まで(第3版):ジュディス・ベックの認知行動療法テキスト』(伊藤絵美・藤澤大介, 訳). 星和書店.(原著出版 2020)

※本記事は上記文献をもとに、公認心理師・だびでが執筆時点(2026年10月)の情報で構成しています。

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