「電車に乗るのが怖くて、つい各駅停車やタクシーを選んでしまう」
「人前で話す場面になると、理由をつけて断ってしまう」——不安な場面を避けているうちに、行ける場所やできることが少しずつ減っていませんか?
不安な場面を避けると、その場ではほっとします。けれど避け続けるほど、「やっぱりあの場面は危なかった」「避けたから無事だった」という思い込みが残り、次に同じ場面が来たときの不安はかえって強くなりやすくなります。避けてしまうのは、気持ちが弱いからではありません。不安という警報が、そういう学習をしやすい仕組みになっているのです。
このツールでは、怖い場面を書き出して不安度(0〜100)で並べ、下の段から一段ずつ挑戦していくための不安階層表(エクスポージャーのはしご)をつくります。挑戦した日の前後の不安度と、「心配していたことが本当に起きたか」も記録できます。ブラウザ上で入力でき、記録はブラウザに自動で保存されます。印刷・PDF保存も可能な無料ツールです。
不安階層表(エクスポージャーのはしご)とは?
エクスポージャーとは、不安や恐怖のために避けている場面に、安全な形で少しずつ近づいていく練習のことです。不安症の認知行動療法(CBT)で中心となる技法のひとつで、パニック症や社交不安症などの治療で広く使われています。成人の不安症に対するCBTの効果は、プラセボ対照のランダム化比較試験をまとめたメタ分析でも確認されています(Hofmann & Smits, 2008)。
ただし、いきなりいちばん怖い場面に飛び込む必要はありません。そこで使うのが不安階層表です。怖い場面を「どのくらい不安になるか」で点数をつけて並べ、はしごのように下から順に登っていきます。不安度は次のような目安でつけます。
| 不安度 | 目安 |
|---|---|
| 0 | まったく平気 |
| 25 | 少しドキドキするが、ふつうにできる |
| 50 | はっきり不安。できるが、かなり気になる |
| 75 | かなりつらい。できれば避けたい |
| 100 | 想像できるかぎり最大の不安 |
人生をゲームにたとえるなら、不安階層表はいきなりボス戦に挑まないための「レベル上げのルート表」です。勝てそうな相手から順に経験を積んでいけば、最初は手も足も出なかった場面にも、少しずつ届くようになっていきます。
近年の研究では、エクスポージャーで大切なのは「不安が下がりきるまで耐えること」よりも、「心配していたことが、予想したほどには起きなかった」という予想とのずれを体験することだと考えられるようになっています(Craske et al., 2014)。そのためこのツールでは、挑戦の前に「何が起きると思うか」を書き、終わったあとに実際どうだったかを比べる記録欄を設けています。
あわせて大事なのが安全行動です。「出口の近くに立つ」「必ず誰かと一緒に行く」など、不安を和らげるためにしている工夫は、その場では心強い味方になります。一方で、頼りすぎると「これがあったから無事だった」という学習が残り、不安そのものは小さくなりにくくなります(Hofmann & Hay, 2018)。慣れてきたら一つずつ手放していくのが、はしごを登るもう一つのポイントです。
こんな時に使えます
- 電車・バス・人混みなど、不安で避けている場所が増えてきたとき
- 人前で話す、初対面の人と話すなど、人とのかかわりの場面を避けてしまうとき
- 高い所・動物・注射など、特定のものへの怖さで生活に不便が出ているとき
- 「いつか慣れたい」と思いつつ、何から始めればいいかわからないとき
- カウンセリングや通院で取り組んでいるエクスポージャーの記録をつけたいとき
使い方(4ステップ)
STEP.1 ― 準備チェック
はじめに、ひとりで始めるより専門家と一緒に進めたほうがよい状態(強迫症、つらい出来事の記憶と結びついた怖さ、強い不安のときの解離、強い落ち込みなど)に当てはまらないかを確認します。当てはまる項目がある場合も、はしごを作るところまでは使えます。あわせて、どんな場面が不安なのかを選びます。
STEP.2 ― 場面を書き出す
最終的な目標と、それに関係する怖い場面を思いつくまま書き出し、それぞれに不安度をつけます。順番はバラバラで大丈夫です。ふだん頼っている安全行動も書いておきます。
STEP.3 ― はしごを組む
書き出した場面が不安度の順に自動で並び、「最初に挑戦する段」が表示されます。段の数が少ないときや、段と段の差が大きすぎるときは、間の段を足すヒントも出ます。
STEP.4 ― 挑戦の記録
挑戦するたびに、前に「何が起きると思うか」と直前の不安を、終わったあとに最大の不安・終了時の不安・実際に起きたことを記録します。同じ段で「予想が外れた」経験が2回以上たまると、次の段へ進む目安が表示されます。
はしご作りの所要時間の目安は10分ほどです。入力内容はブラウザ内でのみ処理され、外部に送信されることはありません。記録はお使いのブラウザに保存され、同じ端末・同じブラウザで開けば続きから記録できます。
⚠️ 注意:このシートは診断や治療を目的としたものではありません。
動悸やめまいなど体の感覚にわざと慣れる練習(内部感覚エクスポージャー)は、持病によっては危険な場合があるため、このツールでは扱いません。また、現実に危険がある場面ははしごに入れないでください。不安が強く生活に支障が出ている場合は、専門家への相談をおすすめします。
▼ 不安階層表・エクスポージャーのはしご攻略ツール(無料・ブラウザで使えます)
このツールでは、怖い場面を書き出して不安度(0〜100)で並べ、下の段から一段ずつ挑戦していくための「はしご」をつくります。挑戦した日の前後の不安度と、「予想したことが本当に起きたか」も記録できます。
正解はありません。自分のペースで進めてください。
はしごを作るところまでは使えますが、挑戦は専門家と相談してから始めてください。作ったはしごを印刷して持っていくと、相談のきっかけになります。
「消えてしまいたい」気持ちが強いときは、はしごよりも先に、主治医や身近な相談窓口に気持ちを話すことを優先してください。
・現実に危険がある場面(夜道をひとりで歩く、暴力をふるう相手に会う、など)。はしごに入れるのは「実際の危険は小さいのに、不安で避けている場面」だけです。
別の端末に移すときや控えを残したいときは、STEP.4の「ファイルに書き出す」を使ってください。家族と共有している端末では、使い終わったら「最初からやり直す」で記録を消去しておくと安心です。
平気
ドキドキ
不安
つらい
最大の不安
▶ 書き方の例を見る
▶ 段を増やすときは、時間(1分→10分)・距離・人数・ひとりか誰かと一緒か・時間帯(空いている→混んでいる)を変えると作りやすくなります。
このはしごは、専門家に相談するときの資料として使ってください。どの段から、どう挑戦するかは、相談しながら決めるのがおすすめです。
ツールを使うコツ
コツ① 最初の段は「少しドキドキするけれど、やれそう」から
最初の一歩は、不安度20〜40くらいの段がおすすめです。低すぎると練習になりにくく、高すぎると「やっぱり無理だった」という経験だけが残りやすくなります。いちばん下の段でも不安度が50を超えるときは、まだはしごの段が足りていないサインです。
段を増やすときは、時間(1分→10分)・距離・人数・ひとりか誰かと一緒か・時間帯(空いている→混んでいる)を少しずつ変えてみてください。大きな課題を小さく刻む考え方は、段階的課題設定法とも共通しています。
コツ② 挑戦の前に「何が起きると思うか」を書いておく
「電車の中で倒れてしまう」「声が震えて、変な人だと思われる」など、いちばん心配な予想を具体的に書き、どのくらい確信しているかも数字にしておきます。終わったあとに実際どうだったかと比べると、予想と現実のずれがはっきり見えてきます。
予想どおりのことが起きた場合も、それで失敗というわけではありません。そのとき自分がどう乗り切れたか、思ったより対処できた点はなかったかを書き残しておきましょう。
コツ③ 不安が下がりきるのを待たなくていい
「不安がゼロになるまでその場にいなければ」と考えると、挑戦のハードルが一気に上がります。大切なのは、不安があっても、その場にいられたという経験です。不安は上がっても、いずれ下がっていく波のような性質があります。
予定より早くその場を離れてしまっても、記録には「途中で離れた」と残すだけで大丈夫です。それは失敗ではなく、「この段はいまの自分には少し高かった」という情報です。次は時間を短くするか、間の段を足して挑戦してみましょう。
コツ④ 同じ段を、間をあけすぎずにくり返す
1回うまくいっただけで次の段へ急ぐより、同じ段をできれば週に数回くり返すほうが、経験が身につきやすくなります。このツールでは、同じ段で「予想が外れた」経験が2回以上たまると、次の段へ進む目安を表示します。
慣れてきたら、同じ段のまま安全行動を一つ減らすのも立派なレベルアップです。「誰かと一緒に」を「ひとりで」に、「出口の近く」を「車両の真ん中」に、というように変えていきます。
コツ⑤ ひとりで進めにくいときは、はしごを持って相談する
エクスポージャーは、専門家と一緒に進めることで、段の決め方や安全行動の扱い方を自分に合わせて調整しやすくなります。とくに、手洗いや確認がやめられない(強迫症)、つらい出来事の記憶に関係する場面が怖い(PTSD)といった場合は、ひとりで始めず相談してください。日本では、条件を満たす医療機関で行われる認知療法・認知行動療法は、パニック症(パニック障害)など一部の病気で健康保険の対象になっています。
相談するときは、ツールのはしごと記録を印刷・PDF保存して持っていくと、どんな場面がどのくらい不安なのかを短い時間で伝えられます。どこに相談すればいいか迷う方は、精神科と心療内科の違いを参考にしてください。
不安の関連ツール・記事
不安階層表は、以下のツール・記事と組み合わせるとより役立ちます。
→ 【無料・3分】不安症状セルフチェック(GAD-7参考)|いまの不安の強さを7問で振り返れます。はしごを始める前と、しばらく続けたあとの確認に。
→ 不安が止まらないのはなぜ?|回避や安心確認が不安を長引かせる仕組みを図解しています。はしごがなぜ役立つのかを理解したい方に。
→ 【公認心理師が解説】パニック症(パニック障害)とは?|発作への不安から電車や外出を避けるようになった方へ。パニック症の仕組みと治療の全体像を解説しています。
→ 【公認心理師が解説】不安症とは?|「ただの心配性」との違いや、不安症のタイプを整理しています。
→ 【無料ツール】段階的課題設定シート|不安というより「重くて手がつかない」課題を、今日できる大きさに刻みたいときに。
→ 自信をつける方法|小さな成功体験が「自分ならできそう」という感覚を育てる仕組みを解説しています。はしごを一段ずつ登る意味がわかります。
まとめ
不安な場面を避けるのは、自分を守ろうとする自然な反応です。ただ、避け続けると「避けたから無事だった」という学習が残り、不安の届く範囲が少しずつ広がっていきます。不安階層表は、その範囲を自分のペースで少しずつ取り戻していくための地図です。
ポイントは3つ。下の段から一段ずつ、挑戦の前に予想を書いて、あとで比べる、同じ段をくり返しながら、安全行動を一つずつ手放す。不安がゼロになることを目指す必要はありません。「不安があっても、できた」という経験が、はしごを登る力になります。
まずは、避けている場面を3つだけ書き出してみるところから始めてみてください。はしごの全体が見えると、最初の一歩はきっと思っていたより小さくていいことに気づけるはずです。
参考文献
- Craske, M. G., Treanor, M., Conway, C. C., Zbozinek, T., & Vervliet, B. (2014). Maximizing exposure therapy: An inhibitory learning approach. Behaviour Research and Therapy, 58, 10–23. https://doi.org/10.1016/j.brat.2014.04.006
- Hofmann, S. G., & Hay, A. C. (2018). Rethinking avoidance: Toward a balanced approach to avoidance in treating anxiety disorders. Journal of Anxiety Disorders, 55, 14–21. https://doi.org/10.1016/j.janxdis.2018.03.004
- Hofmann, S. G., & Smits, J. A. J. (2008). Cognitive-behavioral therapy for adult anxiety disorders: A meta-analysis of randomized placebo-controlled trials. The Journal of Clinical Psychiatry, 69(4), 621–632. https://doi.org/10.4088/JCP.v69n0415