何度言っても片付けられない」 「じっとしていられず、いつも走り回っている」 「カッとなると手が出てしまう」
日々の子育ての中で、このような悩みを抱え、「私のしつけが悪かったの?」「愛情不足なの?」と、ご自身を責めてしまう保護者の方が少なくありません。
しかし、公認心理師として断言させてください。それは決して、あなたの育て方のせいではありません。
これらの行動は、脳の前頭前野を中心とした機能の偏りに起因するADHD(注意欠如・多動症)という発達障害の特性である可能性があります 。
本記事では、医療機関での診断基準(DSM-5-TR)などのエビデンスに基づきつつ、日々多くの親子と向き合っている心理師の視点から、ADHDの正体と、家庭でできる具体的なサポート方法について解説します。
ADHD(注意欠如・多動症)とは?
ADHDは、学齢期の子どもの3〜7%程度、つまり1クラスに数名はいるとされる、非常に身近なものです 。性格の問題ではなく、脳の「実行機能(抑制や制御)」の調節がうまくいかない状態と考えられています。
主な特性は以下の3つに分類されます 。
- 不注意(Inattention): 集中が続かない、忘れ物が多い。
- 多動性(Hyperactivity): じっとしていられない、過度な動き。
- 衝動性(Impulsivity): 順番を待てない、思いつくとすぐ行動してしまう。
これらが混ざり合っている「混合型」が一般的ですが、多動が目立たない「不注意優勢型」は、学校で「やる気がない」と誤解されやすいため注意が必要です
うちの子は当てはまる?具体的な3つの症状チェック
ADHDの症状は大きく分けて「不注意」「多動性」「衝動性」の3つがあります。
1.不注意:気が散りやすく、集中が続かない
「やる気がない」と誤解されやすいのがこのタイプです。目に見える派手な動きがないため、周囲が気づきにくく、発見が遅れることがあります 。
学校での様子:
- 授業中、先生の話を聞いているようで、頭の中では別のことを考えている(上の空)。
- テストで、名前の書き忘れや計算符号の見間違い(+と-など)といったケアレスミスが多い。
- 机の中やロッカーがぐちゃぐちゃで、どこに何があるかわからない。
家庭での様子:
- 宿題を始めても、鉛筆や消しゴムで遊び始めてしまい、なかなか進まない。
- 毎日のようにハンカチ、給食袋、プリントなどの忘れ物・なくし物をする。
- 「お風呂に入って、そのあとパジャマを出してね」といった複数の指示を一度に覚えるのが苦手。
2.多動性:じっとしているのが苦手
身体的な動きとして現れるため、幼児期から小学校低学年で最も気づかれやすい特性です。本人としては悪気があるわけではなく、「体の中にモーターが入っているように」動き続けてしまう感覚に近いと言われています。
学校での様子:
- 授業中に座っていられず、席を立って歩き回ったり、教室から出て行ったりする。
- 着席していても、手足を常に動かしたり、椅子をガタガタさせたりする(貧乏ゆすりなど)。
- おしゃべりが止まらず、先生に注意されてもすぐに話し始めてしまう。
家庭・外出先での様子:
- 静かにしなければならない場所(病院の待合室や電車など)でも、走り回ったり高い所に登ったりする。
- 食事中、何度も席を立ったり、姿勢が崩れてテーブルに突っ伏したりする。
3.衝動性:思いつくとブレーキがきかない
「やりたい!」「言いたい!」という気持ちが湧いた瞬間、考える前に行動してしまう特性です。結果を予測して我慢する機能(抑制機能)が弱いため、お友達とのトラブルに発展しやすい傾向があります。
学校・遊びでの様子:
- お友達が遊んでいるおもちゃを、貸してと言う前に勝手に取ってしまう。
- 順番待ちができず、列の割り込みや、滑り台を逆走するなどの行動をとる。
- 授業中、先生の質問が終わる前に、手を挙げずに答えを叫んでしまう。
対人関係での様子:
- カッとなると、言葉よりも先に手が出てしまう(叩く、押すなど)。
- 相手が話している途中でも、遮って自分の話を始めてしまう。
どうやって診断されるの?(DSM-5-TRの基準)
「落ち着きがないからADHD」と単純に決まるわけではありません。 医療機関では、アメリカ精神医学会の最新ガイドライン『DSM-5-TR』に基づき、医師が以下のポイントを慎重に確認して診断します 。
- 症状が続いている(基準A) その行動が6ヶ月以上続いていますか? 入学や引越しなどの一時的なストレス反応ではないかを見極めます 。
- 12歳になる前からあった(基準B) 最近急に始まったのではなく、幼少期(12歳以前)から兆候が見られていたことが条件です 。
- 「家だけ」ではない(基準C) ここが重要なポイントです。「家では暴れるけど、学校ではすごくお利口」といった場合、ADHDではなく環境要因の可能性があります。家庭と学校、習い事など、2つ以上の場所で症状が出ているかを確認します 。
- 生活に支障が出ている(基準D) 友達関係がうまくいかない、勉強についていけないなど、社会生活に明確な「困りごと」が起きていることが重要です 。
※診断は医師が問診や行動観察、必要に応じて心理検査(WISC-IVなど)を行い総合的に判断します。
ADHDの子どもへの支援:生きづらさを減らすために
ADHDは薬物療法と心理社会治療の2つがあります。
これらを組み合わせることで、症状の管理と改善を図ります。
心理社会的療法
薬物療法が脳内の神経伝達物質のバランスを整える「土台作り」だとすれば、心理社会的治療は、その土台の上で「生活スキルという建物」を建てていくプロセス**です。 薬だけで困りごとが全て解決するわけではありません。子ども自身の「成功体験」を積み重ね、自信(自己肯定感)を育むために、以下のようなアプローチが重要になります。
療育
「療育」と聞くと、何か特別な訓練をする場所のように感じるかもしれませんが、実際は子どもが失いかけた自信を取り戻すための場所です。児童発達支援センターや放課後等デイサービスといった専門機関では、公認心理師や保育士などがチームとなり、その子一人ひとりの特性に合わせたオーダーメイドの支援計画を作成します。
ここで最も大切にされているのが「スモールステップ」という考え方です。 例えば、「じっとしている」という目標に対しても、いきなり高いハードルを課すことはしません。「まずは好きな遊びで5分座る」といった、絶対に失敗しない小さな目標から始めます。無理なく「できた!」と褒められる経験を繰り返すことで、子どもは「自分はできるんだ」という有能感を育み、次のステップへ挑戦する意欲を自然と身につけていくのです。
ペアレント ・トレーニング
ペアレント・トレーニングは、決して「親のしつけを正す」ためのものではありません。保護者の方がADHDの特性を深く理解し、子どもに伝わりやすい具体的なコミュニケーション技術(ほめ方や指示の出し方)を習得するプログラムです。
ご家庭ではつい、「何度言ったらわかるの!」と叱ってしまう場面が多いかもしれません。しかし、叱責が続くと親子ともに疲れ果ててしまいます。そこでこのトレーニングでは、注目するポイントを変える練習をします。 問題行動を叱るのではなく、「静かにテレビを見ている」「着替えが終わった」といった「当たり前にできている行動」を具体的に認めて褒めるのです。親の関わり方が変わることで、子どもの行動も落ち着き始めます。結果として、保護者自身のストレスや罪悪感も軽減され、家庭がリラックスできる安全な場所へと変化していきます。
ソーシャル・スキル・トレーニング
ADHDのお子さんは、悪気はないのに衝動的な言動をとってしまい、友達から誤解されたり、トラブルになったりして傷つくことが少なくありません。
そうした対人関係の躓きを防ぐために行うのが、ソーシャル・スキル・トレーニング(SST)です。
ここでは、ゲームやロールプレイ(役割演技)を通して、社会生活のルールや人との関わり方を体験的に学びます。 例えば、「ゲームで負けて悔しい時、物を投げずに言葉で伝える方法」や「相手が話している時は最後まで聞くコツ」などを、実際の場面を想定して練習します。先生や友達が良いお手本(モデル)を示し、実際にやってみて、その場で「今の言い方はすごく良かったよ」とフィードバックをもらう。この繰り返しによって、学校や将来社会に出た時に自分を助けてくれる「一生モノの対人スキル」を身につけていきます。
薬物療法
ADHDは他の発達障害と異なり、症状を改善する薬があります。ADHDの薬物療法には、主に中枢神経刺激薬と非刺激薬が用いられます。
- コンサータ
- ストラテラ
- インチュニブ
- ビバンセ
などがあります。
また、ADHD特性から現れる二次障害(抑うつ気分、不眠、不安)などに対処する薬が処方される場合もあります。
※薬物療法は医師の診断と処方に基づいて行われます。
二次障害を防ぐ
ADHD支援において、私たちが最も重視するのは「自己肯定感」を守ることです [1]。
悪気がないのに「またやったの」「何度言ったらわかるの」と叱責され続けると、子どもは「自分はどうせダメな子だ」という無力感を学習してしまいます。 これが進行すると、不登校、うつ状態、あるいは反抗挑戦性障害といった「二次障害」につながるリスクが高まります 。
早期に特性を理解し、「わざとではない」と周囲が知るだけで、関わり方は大きく変わります。それが、当事者の心を守る最大の防御策なのです。
まとめ
「もしかしてADHDかも?」と思っても、それは決して恥ずかしいことでも、親の責任でもありません。 適切なアセスメント(査定)を受け、その子の脳のタイプに合った「取扱説明書」を手に入れることで、生活のしやすさは確実に変わります。
もし、日々の生活で困りごとを感じているなら、まずはお近くの相談しやすい場所へ声をかけてみてください。
- 地域の保健センター(乳幼児健診などの窓口)
- スクールカウンセラー(学校での様子も把握してくれます)
- 児童発達支援センター
- 精神科・心療内科
私たち専門家は、お子さんの成長を一緒に支える「チームの一員」です。どうぞ一人で抱え込まず、頼ってくださいね。
主要参考文献
- 村山佳津美(2017)注意欠如・多動症 (ADHD) 特性の理解.心身医学57(1), pp27‐28.
- American Psychiatric Association (原著), 日本精神神経学会 (監修, 著)(2023).「DSM-5-TR 精神疾患の分類と診断の手引].医学書院.
- 榊原洋一 (監修). (2019). 『最新図解 ADHDの子どもたちをサポートする本 (発達障害を考える心をつなぐ)』. ナツメ社.

