「手を洗わずにいたら、どうなってしまうんだろう」「確認しに戻らなかったら、取り返しのつかないことになる気がする」——強迫症のつらさは、頭では考えすぎだとわかっていても、手洗いや確認をやめられないところにあります。
強迫症の認知行動療法で中心となる曝露反応妨害法(ERP)は、不安の引き金にあえて向き合い(曝露)、そのときの強迫行為をしないで過ごす(反応妨害)練習です。このツールは、ERPの練習を課題ごとに記録して、不安の変化をグラフでふりかえるための無料の記録シートです。ブラウザ上で入力でき、印刷・PDF保存もできます。
ERP記録シートとは?
強迫行為は、その場では不安を下げてくれる「回復アイテム」のようなものです。けれど使うたびに「やっぱり確認しないと危なかった」という学習が残り、不安と強迫行為はかえって増えていきます。ERPは、この回復アイテムを封印して進むための練習です。
強迫行為をしないでいると、不安はいったん高まりますが、時間とともに少しずつ下がっていきます。同じ課題をくり返すと、不安の山は低く、短くなっていきます。厚生労働省の研究事業でまとめられた強迫症の認知行動療法マニュアルでも、練習のたびに不安の強さを記録する「宿題記録表」が使われています(中谷・加藤・中川)。
さらに近年の研究では、不安が下がることに加えて、「心配していたことは、実際には起こらなかった」という予想とのずれを体験することが大切だと考えられるようになっています(Craske et al., 2014)。そのためこのシートでは、練習の前に「何が起きると思うか」を書き、終わったあとに実際どうだったかを比べる欄を設けています。
また、実際に確認しに行かなくても、頭の中で「確かに閉めた」と思い返して安心するメンタルチェッキングや、打ち消しの言葉・イメージは、強迫行為と同じ働きをします。こうした「こっそり使っている回復アイテム」にも気づけるよう、チェック欄を用意しています。
こんな時に使えます
- 通院やカウンセリングで、ERPの宿題が出ているとき
- 練習の記録を、主治医やカウンセラーに見せて相談したいとき
- 練習を重ねて、不安の山がどう変わってきたかを確かめたいとき
- 治療を始める前に、自分の強迫行為と不安の強さを観察して記録したいとき
使い方(4ステップ)
STEP.1 ― 準備チェック
はじめに、ひとりで練習を始めるより先に専門家に相談したほうがよい状態に当てはまらないかを確認します。あわせて、いちばん困っている症状のタイプを選びます。
STEP.2 ― 課題を決める
「向き合うこと(曝露)」と「やらないこと(反応妨害)」をセットにして、課題を書きます。強迫行為をしないで過ごすと想像したときの不安度もつけておきます。
STEP.3 ― 練習を記録する
練習の前に「何が起きると思うか」を書き、練習中は時間をおいて不安度をつけていきます。終わったら、強迫行為をしないで過ごせたかを◎○△×で選び、こっそり使った回復アイテムがなかったか、心配したことが起きたかを記録します。
STEP.4 ― ふりかえり
課題ごとに、練習のたびの不安の変化がグラフに重ねて表示されます。同じ課題で2回続けてうまく進められ、不安の山も低くなっていると、次の課題に進む目安が表示されます。
入力内容はブラウザ内でのみ処理され、外部に送信されることはありません。記録はお使いのブラウザに保存され、同じ端末・同じブラウザで開けば続きから記録できます。
⚠️ 注意:このシートは診断や治療を目的としたものではありません。
ERPは、主治医やカウンセラーと一緒に課題を決めて進めるのが基本です。ERPでやめるのは「必要以上のくり返し」で、1回の確認やふつうの衛生習慣までやめる必要はありません。現実に危険があることは課題に入れないでください。気分の落ち込みが強いときや、「消えてしまいたい」と感じるときは、練習よりも先に専門家に相談してください。
▼ ERP記録シート(無料・ブラウザで使えます)
このシートでは、取り組む課題を決め、練習するたびに不安度(0〜100)の変化と「やらずにすんだ強迫行為」を記録します。回数を重ねるごとに不安の山がどう変わったかを、グラフでふりかえることができます。
主治医やカウンセラーと一緒に決めた課題の記録にお使いください。正解はありません。自分のペースで進めてください。
STEP.2で課題を書き出し、症状を観察して記録するところまでは使えます。強迫行為をやめる練習は、専門家と相談してから始めてください。書き出した内容を印刷して持っていくと、相談のきっかけになります。
「消えてしまいたい」気持ちが強いときは、記録よりも先に、主治医や身近な相談窓口に気持ちを話すことを優先してください。
・法律やルールに反すること、人に迷惑がかかること。
別の端末に移すときや控えを残したいときは、STEP.4の「ファイルに書き出す」を使ってください。家族と共有している端末では、使い終わったら「最初からやり直す」で記録を消去しておくと安心です。
平気
ドキドキ
不安
つらい
最大の不安
▶ 書き方の例を見る
▶ 課題の候補をたくさん出して不安度の順に並べたいときは、不安階層表ツールも使えます。
最初の一歩としては少し高めかもしれません。時間を短くする(30分→10分)、場所を身近にする(駅のトイレ→自宅のトイレ)など、もう一段低い課題を足せないか検討してみてください。
ツールを使うコツ
コツ① 「やらないこと」は具体的に、少しずつ
「手を洗わない」だけでなく、「30分は洗わない」「石けんで1回・30秒まで」のように、時間や回数をはっきり決めておくと、できたかどうかがわかりやすくなります。いきなりゼロにするのが難しいときは、まず回数や時間を減らすところから始めても大丈夫です。
コツ② 不安が下がりきるのを待たなくていい
「不安がゼロになるまで我慢しなければ」と考えると、練習のハードルが一気に上がります。大切なのは、不安があっても強迫行為をしないで過ごせたという経験です。不安があまり下がらなかった日も、記録としては立派な成果です。
コツ③ 「こっそり回復アイテム」にも気づく
練習がうまくいっているはずなのに不安が下がらないときは、頭の中で確認していたり、家族に「大丈夫だよね?」と聞いていたりすることがあります。気づけた時点で一歩前進です。責める必要はありません。次の練習で、少しずつ減らしていきましょう。
コツ④ 同じ課題を、間をあけすぎずにくり返す
1回うまくいっただけで次の課題へ急ぐより、同じ課題をできれば毎日くり返すほうが、経験が身につきやすくなります。グラフで不安の山が低く、短くなっていくのを確かめてから、次の課題に進みましょう。
コツ⑤ 記録を持って相談する
練習の記録は、印刷・PDF保存して通院やカウンセリングに持っていくと、どの課題がどのくらいできたのか、どこでつまずいたのかを短い時間で伝えられます。うまくいかなかった記録こそ、課題を調整するための大切な情報になります。
強迫症の関連ツール・記事
ERP記録シートは、以下のツール・記事と組み合わせるとより役立ちます。
→ 【公認心理師が解説】強迫症(OCD)の認知行動療法|曝露反応妨害法(ERP)の進め方とうまくいかないときのポイント|ERPの仕組み、治療の流れ、うまくいかないときに見直すポイントを解説しています。
→ 【無料ツール】不安階層表(エクスポージャーのはしご)|課題の候補をたくさん書き出して、不安度の順に並べたいときに。
→ 【公認心理師が解説】強迫症(強迫性障害・OCD)とは?|強迫観念と強迫行為の仕組み、主なタイプ、治療法を整理しています。
→ 【無料ツール】責任円グラフ(責任のパイ)|「何かあったら自分のせいだ」という責任感の大きさを見直したいときに。
まとめ
強迫行為という回復アイテムを手放すのは、怖いことです。けれど、小さな課題でも「使わずに過ごせた」という経験は、確かな経験値として積み重なっていきます。記録をつけると、その積み重ねが目に見えるようになります。
まずは、主治医やカウンセラーと決めた課題を一つ書き出して、次の練習のときに不安度を記録してみてください。グラフの山が少しずつ低くなっていくのを、自分の目で確かめられるはずです。
参考文献
- Craske, M. G., Treanor, M., Conway, C. C., Zbozinek, T., & Vervliet, B. (2014). Maximizing exposure therapy: An inhibitory learning approach. Behaviour Research and Therapy, 58, 10–23. https://doi.org/10.1016/j.brat.2014.04.006
- 中谷江利子・加藤奈子・中川彰子. 強迫性障害(強迫症)の認知行動療法マニュアル(治療者用). 厚生労働省.
- 日本不安症学会・日本神経精神薬理学会(監修). (2025). 強迫症の診療ガイドライン(第1版).