腹式呼吸のやり方|緊張と不安をしずめる「ゆっくり呼吸」の練習法

庭の椅子で胸とお腹に手を置いて呼吸を練習する女性と、そばで見守る黒柴のだびで。 メンタルヘルス

「大事な場面の前になると、胸がドキドキして息が浅くなる」

「布団に入っても、体がこわばって眠れない」

そんな経験はありませんか。これは、気持ちが弱いからではありません。緊張や不安を感じると、呼吸は自然と速く、浅くなります。体が「危険に備えるモード」に切り替わったサインで、誰にでも起こる正常な反応です。

逆にいえば、呼吸を意識してゆっくりにすると、体の側から「もう大丈夫」と伝えることができます。その代表的な方法が腹式呼吸です。

RPGに例えるなら——腹式呼吸は、道具もお金も要らず、いつでもどこでも使えるMP消費ゼロのアクティブスキルです。ただし、効果的に使うためにはちょっとしたコツがあり、知っておきたい注意点もあります。

この記事でわかること

  • 腹式呼吸(横隔膜呼吸)と胸式呼吸の違い
  • 呼吸で気持ちが落ち着く仕組みと、研究でわかっていること
  • 腹式呼吸の基本のやり方とペースの目安
  • 緊張する場面・眠る前など、場面別の使い方
  • うまくいかないときの対処と注意点

注意: この記事は公認心理師の立場から情報提供を目的として書いています。
診断・治療の断言はできません。気になる症状がある場合は、必ず専門家にご相談ください。


腹式呼吸(横隔膜呼吸)とは?

胸式呼吸との違い

私たちの呼吸には、大きく分けて胸式呼吸と腹式呼吸の2つがあります。

腹式呼吸の主役は、肺の下にあるドーム状の筋肉「横隔膜」です。息を吸うと横隔膜が下がり、押し出された内臓によってお腹が前にふくらみます。吐くと横隔膜が元の位置に戻り、お腹がへこみます。

一方、胸式呼吸は、肋骨のまわりや首・肩の筋肉を使って胸を広げる呼吸です。緊張しているときは、この胸式呼吸が浅く速くなりがちで、肩が上下するような呼吸になります。

胸式呼吸 腹式呼吸
主に使う筋肉 肋骨まわり・首や肩の筋肉 横隔膜
動くところ 胸・肩 お腹
起こりやすい場面 緊張・不安・運動中 リラックスしているとき・睡眠中
吸うと横隔膜が下がりお腹が少しふくらみ、吐くと横隔膜が戻ってお腹がへこむ様子を横から示した模式図。お腹に空気が入るわけではありません。

「横隔膜呼吸」「緩徐呼吸」「深呼吸」は何が違う?

似た言葉が多いので、ここで整理しておきます。

  • 腹式呼吸=横隔膜呼吸:同じものを指します。お腹に空気が入るわけではなく、横隔膜が下がった結果としてお腹がふくらみます。専門的には「横隔膜呼吸」と呼ばれます。
  • 緩徐呼吸(ゆっくり呼吸):呼吸の「ペース」をゆっくりにする方法です。研究では、1分間に10回未満の呼吸を指すことが多いです。ちなみに、ふだんの呼吸は1分間に9〜24回ほどです。
  • 深呼吸:大きく吸って吐く呼吸をさす日常語で、決まった定義はありません。

実際にリラックスのために使うときは、腹式呼吸で、ゆっくりしたペースで呼吸するという組み合わせが基本になります。ポイントは「たくさん吸うこと」よりも、「ゆっくり、長く吐くこと」です。


呼吸で気持ちが落ち着く仕組み

吐く息は「体のブレーキ」とつながっている

心拍や血圧、消化などは、自分の意思とは関係なく自律神経が調整しています。自律神経には、体を活動モードにする交感神経(アクセル)と、休息モードにする副交感神経(ブレーキ)があります。

実は、心臓の拍動は呼吸に合わせて少しずつ揺れています。吸うと心拍が少し速くなり、吐くと少しゆっくりになるのです(呼吸性洞性不整脈)。吐いているあいだは、ブレーキ役の副交感神経が働きやすくなっていると考えられています。

つまり、吐く時間を長くとる呼吸は、体のブレーキを踏む時間を長くとる呼吸ともいえます。

心拍のゆらぎ(HRV)と「1分間に6回」

心拍の間隔のゆらぎを心拍変動(HRV)といいます。HRVは、自律神経がしなやかに働いているかどうかの目安の一つとして研究されています。

多くの研究で、1分間に約6回のペースで呼吸したときに、呼吸に合わせた心拍のゆれが最も大きくなりやすいことが報告されています(Lehrer & Gevirtz, 2014)。ただし、最適なペースには個人差があり、おおむね1分間に4.5〜6.5回の範囲にあるとされています。

ゆっくり呼吸に関する研究をまとめたシステマティックレビューでも、1分間に10回未満の呼吸によってHRVが高まること、さらにリラックス感や快適さの向上、不安や怒りの低下などと関連することが示されています(Zaccaro et al., 2018)。

研究でわかっていること・まだわからないこと

では、呼吸法でストレスや不安は実際に減るのでしょうか。

ランダム化比較試験(RCT)12件・成人785人を統合したメタ分析では、呼吸法を行ったグループは、行わなかったグループに比べてストレスが低いという結果が出ています。効果の大きさは「小〜中程度」でした。不安と抑うつ症状についても、同じくらいの大きさの効果が報告されています(Fincham et al., 2023)。

「小〜中程度」というのは、劇的に変わるほどではないものの、意味のある差があるということです。

一方で、限界もあります。このメタ分析の著者自身が、研究の数がまだ少なく、含まれた研究の質にもばらつきがあるため、結果は慎重に解釈する必要があると述べています。横隔膜呼吸だけに絞ったレビューでは、条件を満たした研究は3件しかなく、どれもストレスの低下を示していたものの、数字としてまとめることはできませんでした(Hopper et al., 2019)。

まとめると、腹式呼吸は「これだけで何でも治る」方法ではありませんが、手軽で、根拠のあるセルフケアといえます。


腹式呼吸のやり方【基本ステップ】

準備:姿勢と手の置き方

  • 場所:最初は静かで落ち着ける場所で練習しましょう。
  • 服装:ベルトやきつい服はゆるめておきます。
  • 姿勢:最初は仰向けで膝を立てる姿勢がおすすめです。お腹の動きを感じやすくなります。慣れてきたら、椅子に座って背すじを軽く伸ばした姿勢でも練習してみましょう。
  • 手の位置:片手を胸に、もう片方の手をおへその少し上あたりに置きます。

基本の手順

  1. まず一度、口から「ふーっ」と息を吐きます(無理に吐き切らなくて大丈夫です)。
  2. 鼻から約4秒かけて、ゆっくり息を吸います。お腹の手が持ち上がり、胸の手はあまり動かないのが目安です。
  3. 口をすぼめて(または鼻から)、約6秒かけてゆっくり息を吐きます。お腹の手がゆっくり沈んでいきます。
  4. 2〜3を5分ほどくり返します。慣れないうちは1〜2分からで大丈夫です。

ペースの目安は「吸う4秒・吐く6秒」

吸う4秒+吐く6秒で1回10秒、つまり1分間に6回のペースになります。前の章で紹介した、心拍のゆれが大きくなりやすいペースです。

ただし、秒数にこだわりすぎる必要はありません。苦しく感じる場合は、楽なペースから始めて、少しずつゆっくりにしていきましょう。

段階 吸う 吐く 1分あたりの回数
慣れるまで 3秒 4秒 約8〜9回
基本 4秒 6秒 6回

大切なのは、吸う息より吐く息を少し長くすることです。スマートフォンの呼吸ガイドアプリやタイマーを使うのもよい方法です。

胸とお腹に手を置き、4秒で吸って6秒で吐く腹式呼吸の練習手順。秒数は目安とし、苦しくないペースで行います。

よくあるつまずきと対処法

  • お腹をふくらませようと力んでしまう:お腹は「ふくらませる」ものではなく、横隔膜が下がった結果「ふくらむ」ものです。力を抜いて、ふくらむのを待つくらいの気持ちで行いましょう。
  • たくさん吸おうとしてしまう:吸う量は、ふだんより少し多い程度で十分です。意識を向けるのは「吐く息」のほうです。
  • 息苦しくなる:ペースが遅すぎるのかもしれません。少し速めのペースに戻して、慣れてきたら少しずつゆっくりにしていきましょう。
  • 考えごとが浮かんでくる:自然なことです。気づいたら、また呼吸の数を数えることに戻れば大丈夫です。

場面別の使い方

呼吸法は、ストレスに対処するための「手札」(ストレスコーピング)の一つです。どんなスキルも、平常時に練習しておくほど、いざという場面で発動しやすくなります。

① 毎日の練習:まずは1日5分から

腹式呼吸は、落ち着いているときに練習しておくのが一番のコツです。強い不安の真っ最中に初めて試しても、なかなかうまくいきません。

「朝起きたら」「昼休みに」「お風呂のあとに」など、毎日の行動とセットにしておくと続けやすくなります。

練習の記録には、活動記録表が使えます。練習した時間帯に印をつけ、練習の前後の気分を0〜100で書いておくと、自分にとっての効果がわかりやすくなります。

② 緊張する場面の前に

面接、プレゼン、受診の前など、緊張する場面の前に1〜2分だけ行います。トイレの個室や移動中、座ったままでもできます。人前では手をお腹に置かなくてもかまいません。

ここでの目標は、緊張をゼロにすることではなく、動ける程度まで下げることです。ある程度の緊張は、集中力を高める味方にもなります。

③ 眠る前に

布団の中で仰向けになり、そのまま腹式呼吸を行います。このとき「眠らなきゃ」とがんばる必要はありません。「体を休める時間」と考えて、眠くなったらそのまま眠ってしまって大丈夫です。

④ すぐに落ち着きたいとき:「生理的ため息(サイクリック・サイ)」

短い時間で気持ちを切り替えたいときには、生理的ため息と呼ばれる呼吸法もあります。

  1. 鼻から深く息を吸います。
  2. 吸いきったところで、もう一度、鼻から短く吸い足します。
  3. 口から、ゆっくり長く息を吐き切ります。

これを数回くり返します。

1日5分を1か月続けてもらったランダム化比較試験では、3種類の呼吸法とマインドフルネス瞑想を比べたところ、吐く息を重視するこの方法が、気分の改善と呼吸数の低下でマインドフルネス瞑想を上回りました(Balban et al., 2023)。ただし、健康な人を対象にオンラインで行われた1件の研究なので、「試してみる価値のある方法の一つ」と考えておくのがよいでしょう。

⑤ 考えがぐるぐるするときは

呼吸で体が少し落ち着いたら、不安のもとになっている「考え」に取り組むのも効果的です。認知再構成シートを使うと、頭の中のぐるぐるを紙の上で整理できます。

呼吸法は体から、認知再構成は考えから働きかける方法です。組み合わせて使うことで、より対処しやすくなります。


注意点と、うまくいかないときは

吸う息をがんばりすぎない

深く速く吸いすぎると、血液中の二酸化炭素が減りすぎて、めまい・手足のしびれ・息苦しさが出ることがあります。そうなったら練習をいったんやめて、ふだんの呼吸に戻しましょう。ゆっくり、軽く、吐く息を長く、が基本です。

リラックスしようとして、かえって不安になることもある

リラクセーションの練習中に、かえって不安や緊張が強くなる人がいます。これは「リラクセーション誘発性不安」と呼ばれ、以前から知られている現象です。

慢性的な緊張を抱える成人を対象にした研究では、筋弛緩法で約3割、瞑想で約5割の人が「練習中に緊張が高まった」と報告しています(Heide & Borkovec, 1983)。体の感覚に注意が向くことや、「コントロールを失う感じ」への怖さが関係していると考えられています。

もし練習中に不安が強くなったら、次の方法を試してみてください。

  • 目を開けたまま行う
  • 1分程度の短い時間から始める
  • 体の感覚ではなく、「数を数えること」に注意を向ける
  • 合わなければ、筋弛緩法など別のリラクセーション法に切り替える

これは「失敗」ではありません。方法と人との相性の問題です。

つらいときはいったんやめてふだんの呼吸に戻し、目を開ける、短時間から試す、別の方法を選ぶという対処の図。合わなくても失敗ではありません。

パニック症の方へ

パニック症の方は、呼吸法を「発作を起こさないためのお守り」として頼りすぎると、かえって不安が長引くことがあります。パニック症の治療では呼吸法の位置づけが少し異なるため、主治医やカウンセラーに相談しながら取り入れてください。パニック症そのものについてはパニック症の解説記事、治療の進め方は不安症の認知行動療法の解説記事で詳しく紹介しています。

体の病気がある方

喘息やCOPDなどの呼吸器の病気、心臓の病気がある方は、呼吸法を始める前に主治医に確認しておくと安心です。

専門家への相談を考えてほしいサイン

次のような場合は、セルフケアだけで抱え込まず、専門家への相談を考えてみてください。

  • 不安や緊張のために、仕事・学校・睡眠などに支障が出る状態が続いている
  • 呼吸法などのセルフケアを続けても、つらさがあまり変わらない
  • 動悸や息苦しさの発作をくり返している(体の病気が隠れていないか、まず内科で確認しましょう)

相談先の選び方は、カウンセリングはどこで受ける?の解説記事を参考にしてください。


まとめ

この記事で解説した内容を振り返ります。

  • 腹式呼吸(横隔膜呼吸)は、横隔膜を使ってお腹がふくらむ呼吸です。リラックスのためには、ゆっくりしたペースで、吐く息を長くするのがポイントです。
  • 吐く息は、体のブレーキ役である副交感神経とつながっています。1分間に6回前後のペースが一つの目安です。
  • 研究では、呼吸法でストレスや不安が小〜中程度減ることが示されています。万能ではありませんが、手軽で根拠のあるセルフケアです。
  • 落ち着いているときに毎日練習しておくと、緊張する場面や眠る前に使いやすくなります。
  • 吸いすぎによるめまいや、リラックスしようとして不安が高まる人もいることに注意し、合わなければ別の方法を試しましょう。

ストレスは、気づかないうちに少しずつたまっていく蓄積デバフのようなものです。ため込みすぎる前に、こまめに解除していくことが攻略のコツです。毎日の数分間を、自分の体を休める時間にしてみてください。

最初から上手にできなくても大丈夫です。呼吸法だけで抱えきれないつらさがあるときは、一人で抱えずに専門家を頼ってください。

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監修:公認心理師・だびで | だびでの心理室


参考文献

  • Balban, M. Y., Neri, E., Kogon, M. M., Weed, L., Nouriani, B., Jo, B., Holl, G., Zeitzer, J. M., Spiegel, D., & Huberman, A. D. (2023). Brief structured respiration practices enhance mood and reduce physiological arousal. Cell Reports Medicine, 4(1), 100895. https://doi.org/10.1016/j.xcrm.2022.100895
  • Fincham, G. W., Strauss, C., Montero-Marin, J., & Cavanagh, K. (2023). Effect of breathwork on stress and mental health: A meta-analysis of randomised-controlled trials. Scientific Reports, 13, 432. https://doi.org/10.1038/s41598-022-27247-y
  • Heide, F. J., & Borkovec, T. D. (1983). Relaxation-induced anxiety: Paradoxical anxiety enhancement due to relaxation training. Journal of Consulting and Clinical Psychology, 51(2), 171–182. https://doi.org/10.1037/0022-006X.51.2.171
  • Hopper, S. I., Murray, S. L., Ferrara, L. R., & Singleton, J. K. (2019). Effectiveness of diaphragmatic breathing for reducing physiological and psychological stress in adults: A quantitative systematic review. JBI Database of Systematic Reviews and Implementation Reports, 17(9), 1855–1876. https://doi.org/10.11124/JBISRIR-2017-003848
  • Lehrer, P. M., & Gevirtz, R. (2014). Heart rate variability biofeedback: How and why does it work? Frontiers in Psychology, 5, 756. https://doi.org/10.3389/fpsyg.2014.00756
  • Zaccaro, A., Piarulli, A., Laurino, M., Garbella, E., Menicucci, D., Neri, B., & Gemignani, A. (2018). How breath-control can change your life: A systematic review on psycho-physiological correlates of slow breathing. Frontiers in Human Neuroscience, 12, 353. https://doi.org/10.3389/fnhum.2018.00353

※本記事は上記文献をもとに、公認心理師・だびでが執筆時点(2026年11月)の情報で構成しています。

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